天使たちが地球を離れていく。短編小説『堕天する直前まで僕は』

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tenshihikkosi
 

「お世話になりました」

「……アナタも引っ越してしまうのか」

「はい……この惑星はもう、ダメだと思うので」

「でもまだ天上界全てが住めなくなったわけじゃ……」

「時間の問題ですよ、残念ですけど」

「…………」

 僕の家に挨拶に来た天使は、ペコリとお辞儀をすると去っていった。
 彼の背中から生える羽が心なしかしおれているのは、住み慣れた地球を離れる寂しさからくるのか、それとも汚れた天上界の空気を吸ったことによるものなのか。
 できれば、前者であってほしい。
 

       *
 

 天使たちが天上界から飛び立っていく。
 彼らはどこの惑星に向かうのだろうか。
 住み良い星を見つけるのはたやすいことではない。
 きっと、気の遠くなるような時間を宇宙遊泳に費やすのだろう。
 それにしても……。
 何度目だろう。
 引っ越す天使を見送るのは。
 

       *
 

 人間は知らないだろうけれど、地球の雲の上には天上界と呼ばれる天使たちが住まう世界が広がっている。
 我々は人間たちを視認できるが、人間達が我々天使を視認することはできない。
 ゆえに、彼ら人間は気付かない。
 

 大気汚染で、我々の天上界が汚されて住めなくなっていることを。
 

 空気の悪さが天使のコアとなっている聖心を汚染し、しまいには羽を黒くしてしまう。
 そうなったが最後、天使は堕天し地上へ落ちて死んでしまう。
 そうなる前にと、地球に住む多くの天使地球から引越しをしている。
 ほかの、もっと空気のキレイな惑星へと。
 
       *
 

 僕が天使たちの引越しを見送っていると、近所に住むほかの天使が僕に近付いてきた。

「やあ」

「うん」

「君は引っ越さないのかい?」

「僕はぎりぎりまで踏みとどまってみるよ」

「どうしてそこまで。堕天して死んでしまうよ?」

「かもね。でも僕は」

 僕は下界を見やる。
 下界では人間たちが生きていた。
 笑って、
 泣いて、
 怒って、
 ははは、今日も楽しそうだな。
 

「人間のことが、好きだから」
 

※あとがき
『汚れた天井』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
人間関係のゴタゴタに懲りた、と言っておきながらもまた人間関係のゴタゴタに身を投じる人を見かけるたびに、「おまえ、実は人間のこと好きなんだな……」と思わずにはいられません。

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