彼が盗人に転向したワケは?短編小説『金貨が飢えている』

 城の宝物庫に侵入者が侵入したのは、夜闇も色濃くなった深夜のことだった。
 王族、家臣の者達は寝静まり、少数の夜警の兵士達のみが城内を見回りすべく動いていた。
 その手薄な警備の時間帯を狙って、侵入者は宝物庫を狙った。
 手薄とはいえ、城内への侵入は簡単ではない。
 少数の兵士とはつまり、少数精鋭ということでもあるのだから。
 中には一騎当千の猛者もいるほど。先日まで続いていた魔王軍との戦争では大活躍をみせていた逸材も。
 並みの人間に侵入は不可能だ。

       *

「侵入者だ! 侵入者が城内にいるぞっ!」
 兵のひとりの叫び声がとどろいた。
 それを聞いた兵たちが一斉に声の出所に向かうも……。
「なっ……」
「うそ、だろ……」
 兵たちは息を呑む。
 侵入者の報せを叫んだ兵が斬り殺されていた。
 腹から赤々とした血が流れ、石の床に血だまりを作っている。
 絶命した兵は相当な剣の使い手で、魔王軍との戦闘では実にひとりで五百以上もの魔物を屠った男だった。
 そんな彼がこうもあっさりと殺されたことに、兵たちは呆然とした。
 
       *

「君たちもこうなりたくなければ大人しくしていることだな」
 突如、天井から声がして上を向いた兵たち。
 そこにはひとりの男が逆さになって天井に立っていた。
 魔術によって重力操作を行っているのだろう。
 その男を目にした兵たちが声を失う。
「勇者様っ!」
 天井に張り付いていた男は勇者だった。
 魔王軍との戦争で勇者に選ばれ、魔王と戦い勝利を納めた世界の英雄である。
「な、なぜあなたのような偉大なお方が宝物荒らしなど……」
 兵のひとりが問うた。
 それに勇者はこう答える。 
「貯めこまれた金が飢えているからさ」
「金が、飢えている……?」
「金っていうのは使われてなんぼなんだよ。それなのにこの国の王族の老人たちはこうして貯め込んで世界に流さない。世界に金が流れないと停滞、そしていずれは衰退を生む。だから僕がこうして金を老人の呪縛から解放しにきたのさ」
 勇者は語り終えると、その場にいた兵士全員をみねうちで気絶させ、瞬く間に城から脱出した。
 その翌日、多くの民が自分の家の玄関、窓、あるいは煙突に繋がった暖炉に、きらめく金貨が配られていたことに驚き、歓喜したのだった。
 

※あとがき
『飢えたお金』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
意外性を出すために犯行に及んだ者を勇者にしてみたけど、勇者がここに至るまでにたどった経緯とかがほしいなぁと思ったり。
まあでも、サクッと読める長さのものをブログに載せたいので、今回のような形がベストかなとも思ったり。
思ったり思ったり。
 

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