トーチャンがおれを山に置き去りにした。短編小説『アナタ博物館』

anatahakutubukan

「ったく、トーチャンめぇ、何も置いてくことないじゃんかよ~」

 おれは地面に転がってる石ころを思いきり蹴り飛ばした。
 石は木に当たった後にコロコロ転がって見えなくなった。
 山の中ってどこも同じに見えるなぁ。

「……どこだろ、ここ」

 まわりは背の高い木ばっか。
 葉っぱばっか。
 土ばっか。

 あぁ、ゲームやりてぇ。
 くっそー、トーチャンが
 

「言うことを聞かないヤツは置いていく!」
 

 なんてブチ切れておれを山道に置いてって車で先行っちゃうからこんなことになっちまったんだ。
 車に石なげたおれもおれもだけど。
 オトナになったら絶対にトーチャンをブン殴ってやるんだ。
 今殴ってやりたいとこだけど、ぜったいに負けちゃうからな。
 ……くっそー。

「誰かいないのー」

 声をあげ、ついでに石をブン投げてみた。
 石はまた木に当たってコロコロと山を転がっていった。
 ムシャクシャするぜぇ。
 別の石ないかなぁと思って地面を見てみたけど、ろくな石がなかった。
 ちょっと大き目のヤツがいいんだよなぁ。
 どっかないかなぁ。
 ――と、視線をあげてみると、
 

「え」
 

 大きな建物があった。
 近所の文化センターなんかよりもずっと大きな建物だ。
 白い壁で、入口あたりは全部ガラス張りになっててキレイ。
 でも、今さっき見たときはこんな建物なかったのに。
 だいたいここ、山ん中だぜ?
 

       *
 

 こわいけどその建物に入ってみる。
 すると、
 

「ようこそ」
 

 スーツ姿の白髪のオジサンが出迎えてくれた。

「え、あ、ここって、なに?」

「ここはアナタ博物館です」

「アナタはくつぶかん?」

「はい。過去から未来まで、人生の全てが展示されている博物館でございます」

「ほーん」

 何言ってんだろねこのオジサン。
 でも最初はビックリしたけど、だんだんおち着いてきたぞ。
 山ん中でひとりぼっちは恐かったけど、ここにいるうちは大丈夫そうだ。

「ご案内いたしましょう」

 たのんでもいないのに案内だとか言ってオジサンが歩き始めた。
 それよりもお菓子がほしいなー。
 あとコーラ。
 

       *
 

 よくわかんないオジサンの案内は、よくわかんなかった。

「まずは過去からご覧頂きましょう」

「ほいほい」

 ハラへったなぁ。
 お?
 ガラスのショーケースの中に写真がかざってある。

「こちらが、アナタが生まれたときのお姿でございます」

 と、なんでかわかんないけど生まれたばかりのおれの写真らしきものが展示されていた。本当におれのなの?
 写真の赤ん坊はサルみたいな顔だぞ。
 おれ、かなりいけめんなんだけど。たぶん。

「こちらが、アナタが小学校に入学したときの写真でございます」

 小学校の校門の前で、カーチャンと並んでピースしてるおれが写っていた。
 これは分かる。覚えてるもん。
 
 未来では、

「これはアナタが中学に入学するときの写真と、制服でございます」

 よくわかんないけど、まだ入学してない中学の制服と、大きくなったおれの写真が展示されていた。
 隣に移ってるカーチャンが、今よりちょっとオバサンっぽい。
 今もオバサンだけど。
 でもカーチャンよりも変わってるのがおれ。
 背は今よりずっと高くなってるし、顔もオトナっぽくなったなぁ。
 

「これはアナタが初任給でお父様に買って差し上げるワインでございます」
 

 しょにんきゅうっつうのがよく分かんない。
 でも、おれがトーチャンにワインを買ってあげる?
 ああん?
 マジかよ。
 オトナになったらブン殴るつもりなんだけど……。
 だいたい、トーチャンはワインなんか飲まないと思うんだよなぁ。
 いっつもでっかいペットボトルに入ったショーチューとかいうヤツだし。
 

       *
 

 そんなふうに、おれがジジイになるまでの未来を見終わったら、博物館の外まで見送られた。
 お菓子ぐらい出してほしいぜ。
 おもてなしってことば知ってる?

「ここをまっすぐ行けば、ご両親が待っております」

 オジサンさんはそう言って、博物館の中に戻って行った。

 言うとおりにまっすぐ行くと、本当にトーチャンとカーチャンが待っていた。
 ほかにも知らない大人の人たちがたくさんいた。
 よくわかんないけど軍人さんたちもいっぱいいた。

 どゆこと?

 トーチャンとカーチャンは泣いてた。
 五日間もどこに行ってたんだとかね。
 何言ってんだろ。
 博物館に行ってただけなのに。
 ……って思ったら、本当に五日経ってたからビックリした。
 周りのオトナや警察の人にもどこにいたんだって聞かれたから、

「博物館だよ」

 って教えたんだけど、誰も信じてくれないんだよなぁ。 
 あの山に博物館なんかないってさ。
 だからもう一度博物館に行こうと思ったんだけど、同じ場所に行っても博物館はなかった。
 
 トーチャンとカーチャンはあれ以来、やけにやさしくなった。
 特にトーチャンは、品が大切だとかワケわかんねえこと言って酒を飲む量を減らした。
 酒とおれのシツケに何が関係あんのかよくわかんないけど、いいことだとおもう。
 ワインをコップ……じゃなかったグラス?に一杯って決めてるんだって。
 おれがオトナになったら、うまいワインでも買ってあげよっかな。
 
 
※あとがき
『儚い博物館』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
タイムリーな内容にしてみました。

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