熟してから食べよう。短編小説『魔王の実』

maomomo

「まっ、待ってくれ! 働くから! 俺っ……心を入れ替えてちゃんと……!」

「サヨナラ」

 冷たい声で、彼女は俺に別れを告げていなくなった。
 付き合って五年。
 あっという間だったな……。
 
「……ちくしょう」

 原因は、競馬をやりすぎて借金まみれになっちまった俺にある。
 新卒で入社した会社は一年も経たないうちに嫌気がさして辞めて、その後から転がり落ちるように今に至る。
 どうにかなると思った。
 でも、
 いや、
 まだ、
 どうにか……。
 

       *
 

 家賃も払えなくなってついにはアパートを追い出された。
 借金を返すために家電や家具は売り払っちまったから、俺は身ひとつでサクッと放り出されてしまった。
 なんて身軽なんだよ。

「はは……ははは……」

 乾いた声は笑っているのか、泣いているのか。
 自分でもよくわからなかった。
 ぐう、と腹が泣く。
 あぁ、腹は笑っちゃいねえな……。
 ――と、

「どうしたんだい、シケた面構えしとるじゃないか」

「あ?」

 知らない婆さんが声をかけてきた。
 周りを見ると俺と婆さん以外には誰もいない。
 誰かと間違えてんのか?
 無視して通り過ぎようとすると、婆さんは俺の腕をつかんだ。
 骨に皮が張りついてるだけのような細い腕なのに、やけに力があってギョッとした。

「なっ、なんだよ」

「ほれ」

 婆さんがひとつの桃を差し出してきた。

「え……?」

「やるよ」

「お、おう……」

 ワケわかんねえが素直に受け取ることにした。
 もう金なんてろくにない。
 食い物が貰えるなら喜んでもらうぜ。

「ありがたく頂くよ」

 俺がその場でかじりつこうとすると、婆さんはそれを止めた。

「まだ食べるには早い。もう少し熟れてからだ」

「熟れてから? いいよそんなの。俺は腹減ってんだよ」

「焦っちゃいかん。物事にはタイミングがある」

「はぁ」

「決して腐ってから食べないこと。でないと、恐ろしいことになるからな」

「なんだよそりゃ」

 まあ、せっかくもらったんだ。
 一番美味いときに食ったほうがいいか。
 

       *
 

 フラフラと歩いていると公園があったんで、俺はその中にあるベンチに腰掛けた。
 ダメだ。
 今日は朝から何も食ってないから体力が……。
 俺の前をジョギングしているジジイが通り過ぎていった。
 たぶん今の俺はジジイより力がねえな……。
 
「腹減ったなぁ……」

 さっきもらった桃を食っちまうか……。
 熟れてから、とか言われたけど、そんな今日中に熟れるワケねえ。
 でも、俺の腹はもう待っちゃくれねぇ。

「ええいっ」

 俺は桃をかじった。
 すると、中はどす黒くなっていた。

「はぁ!? なんだよこれ! 腐ってんのか!」

 フザけやがって……!
 見た目とは裏腹に、桃の実はそのほとんどが闇のように真っ黒だった。
 だが、空腹を満たすために俺は食った。
 食って、食って、むさぼり食った。
 そんな俺の様子を、通りがかった中年のオッサンが奇異の目で見てきた。
 見知らぬ子供が、指差して笑ってきた。
 井戸端会議してるオバサンたちが、俺のほうをチラチラ身ながら小声で何か話してる。
  

 くっそ、なんで俺ばっかこんな目に……。
 

 憎い。
 全てが憎い。
 口の中に広がる苦さが憎しみとリンクする。
 その苦々しい果実を飲み込むと、身体中に妬みや憎しみが行き渡った。
 
「ぐ、ぐぞ……なんでおれ、だ、け……グアアアァァァァ!!」

 叫んでみると、口から炎が出た。
 公園の木が丸こげになった。
 周りにいた連中が悲鳴をあげて逃げていく。

「……ははは」

 なんだこれ。
 体が熱い。
 力が溢れ出てくる。
 超楽しい。
 
 気がつくと、俺の体はやたらと大きくなって、皮膚はさっきの桃のようにどす黒くなっていた。
 しばらく経ってから、俺は「魔王」と呼ばれ恐れられるようになった。
  

※あとがき
『暗黒のお尻』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
いやぁ、めっちゃ悩みましたねぇ…。

「サルの尻」
「ブラックホール」
「宇宙」
「腐った桃」
「暗黒魔界」
etc…

思いついたワードを片っ端から書いていき、採用したのが「腐った桃」です。
「暗黒魔界」もヒントになったかな。

まぁ、いずれにせよ、奇怪な小説ですけど。
でもそういう小説を書けちゃうのが即興小説の醍醐味なんですよねぇ。
ゼロから自分で考えてたら、絶対に書かないし書けないですもん。
 

ノーベル 濃厚白桃キャンデー 90g×6個
ノーベル製菓
売り上げランキング: 16,094

 

※物書きならポメラあるといいよ!ポメラ関係の記事はこちら
ポメラだって文字数ぐらい調べられるから!ポメラで文字数を調べる方法を解説してみた

ポメラは小説に向いているのかどうか考えてみた

僕がポメラを手放せないたったひとつの理由

ポメラDM100の使い心地について僕が思ったこと

物書き達よ、ポメラを持って部屋を出よう!

ポメラDM100を購入して1年経った僕が後から追加で買った3つの物

※オススメ記事
三年間一次選考落ちを続けてた僕が毎年電撃大賞で一次通過できるようになった裏話。この本を参考にしましたよ。

電撃大賞の拾い上げについて考えてみた

【まとめ】小説家のたまごがフォローすると参考になるTwitterアカウント3選

ネーミング辞典のあまりの便利さに脱帽……。


※カカオのツイッターアカウントです。日常ツイートから後追いゲーマーライフの模様まで色々つぶやいてます。お気軽にフォローしてください。

SPONSORED LINK