料理にこだわる彼に訊いてみた。短編小説『君のための料理』

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 とにかく、わたしの彼氏は料理にこだわる。ちなみに彼は作る側。
 わたしは料理は苦手なので、そこのところを彼氏が補填してくれ嬉しい限りではある。
 高校時代からの付き合いで、大学生になって互いに独り暮らしを始めた今では半ば同棲状態で、彼の料理スキルが大いに役に立ってくれている。自炊だと食費も助かるしね。
 でも。
 でもね。
 ちょっとこだわりすぎだと思うんだよねぇ……。
 
 
 まず食材選びからして尋常じゃない。
 業務用のスーパーに行き、じっくりと品定めをし、買うべき品を決める。冗談抜きで二時間とかかかる。それでも満足できないときなんかもあり、その場合は別のスーパーに足を向ける。一度など、地方の漁業市場まで出かけたほど。
 ちなみにそのとき、わたしは外でぼんやりと海を眺めていた。

       *

「……あのさ、前から訊きたかったんだけど」
 コトコトとシチューを煮込む彼にわたしは訊いた。
 シチューはかれこれ七時間ほど煮込んでいる。なんとかってお肉が入っていて煮込みに時間がかかるとかなんとか。なんとか肉の詳細は彼がさっき説明したけど忘れてしまった。
「うん?」
 彼が反応する。目線は鍋に向けられたままだ。
「どうしてそんなに料理にこだわるの?」
「君に美味しいものを食べて喜んでもらいたいから」
「ほえ?」
 あまりにも自然とスルッと彼が言ったその言葉が、自分の中で上手く消化できずにわたしはしばし固まった。
 それから、赤面した。
 あれだけのこだわり、時間のかけかた、行動力の凄さは、全て自分に向けられた自分のためだけのものだとわかると、胸の中が鍋の中のシチューのように熱くなってしまった。
 何を当たり前のことを? みたいな顔をしてるよこの男……。
 わたしの気持ちなど知らないで。

       *

 シチューはとてもおいしかった。
 具になっているナントカってお肉もやわらかくて口の中でとろけていくようだった。
「わたしも料理してみよっかなぁ」
「えっ……」
 彼が絶句した。
 どういう意味だよ。
「もしかして、わたしに料理させないためとか、そういう理由じゃないよね?」
 無論、わたしは彼が料理をする動機のことを話題にしている。
「そ、そんなワケないだろ。ナハハハ」
「ふうん」
 彼は料理は上手いけど嘘は下手だった。
 明日、絶対に料理してやる。
 

※あとがき
『シンプルな動機』というお題を元にして書いた即興小説を、一部加筆修正した作品です。
なんだかんだ言ったって、料理できる女子って強いと思うんです。
意中の男性がいる女子は、彼の舌と胃袋を征服すればこっちのもんだと思ってオーケー(たぶん)。
 

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