ミドリにとってその木は母だった。短編小説『木の根元で母は』

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 ミドリにとって、家の庭のその木は友達も同然だった。いや、どちらかというと母親かもしれない。
 四歳の頃に母親が行方不明になってしまったのだ。
 そんな娘のために、父がこの木を植えてくれたのである。
 父親に怒られたときは木に寄りかかって静かに泣き、友達と喧嘩をしたときは心を静めるために木の下で膝を抱えて座ってぼんやりし、恋人ができたときは彼と木によじ登って遠くの景色を見たりもした。

       *

 ミドリが結婚し家を出て、それから五年ほど発ったとき、父が亡くなった。
 親戚とも話し合い、実家は売ることになった。ミドリはもう結婚し家も買ってそこで暮らしている。実家まで維持するのは骨が折れる。ただ気がかりがひとつだけあった。
 あの木だ。
 ここがもし売りに出されたら、あの木はどうなるのだろうか。買い手次第ではこの家を取り壊し、あの木も切って駐車場にでもしてしまうかもしれない。そうでなくても、木を切ってしまう可能性は大いにあった。

       *

 一年後、実家のあった場所を訪れてみると、きれいサッパリ更地になっていた。あの木も伐採されていた。でも、ミドリにはあの木がどこにあるのか、たとえ更地になってもそれがわかった。
 木のあった場所に立つミドリ。
 風が吹き、ミドリの頬をそっと撫でる。
 ふと地面を見やると、木のあった場所がほんの少しだがくぼんでいた。
 そういえば小さい頃に、木の根元に何か埋めたことをミドリは思い出した。でも、何を埋めたんだっけ。
 気になって、ミドリはくぼみをさらに深く掘り、そして広げた。
 何かが出てきた。
 それは、
 
 
 
 

 骨だった。人間の頭蓋骨。
 
 
 
 

「ひっ……」
 ミドリは言葉を失う。
 そして、全てを思い出した。
 ミドリの中で、昔の記憶が奔流のように溢れ出し、映像化される。
 それはミドリがまだ四歳のとき。
 彼女は台所で皿を洗っていた母親を驚かそうと思い、後ろから「ワッ」と押して驚かした。だがミドリの想像以上に母親は驚き、倒れてしまった。運の悪いことに母は床に強く頭を打ちつけ、命を落とした。
 その瞬間を父がちょうど見ていた。
 彼はミドリのために全てを隠した。
 母の死体は庭に埋め、警察には捜索願を出した。
 母は未だ行方不明ということいなっている。

       *

 ミドリは呆然としたまま頭蓋骨を撫でる。
「そっか、だからお父さんはここに木を植えたんだ」
 お母さんを隠すために。
 そして、わたしのために。
 ミドリは、またそっと土をかぶせておいた。
 

※あとがき
『緑の木』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。
お題をキャラ名にするのはちょっとずるいかなとも思ったのはここだけの秘密だぞ(笑)
 

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