一見するとただの団地だが……。短編小説『団地妻アンドロイド』

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 カムフラージュとして、団地妻というステータスほど優れているものはないと思う。
 彼女らは昼間から家にいようが外を出歩こうが自然であり、しかも団地という集団性も付与されているため、複数人で行動を共にする機会があってもさほど不思議ではない。井戸端会議を装うことなど造作もない。
 また、団地という建物の構造も、私の研究にはうってつけだ。
 いくつもの部屋があり、さらには『○号棟の105』のようにナンバリングまでされている。研究物の保存としてこれほど向いている建物はない。
 セキュリティの面がザルであるのが唯一の欠点だが、彼女ら自身がセキュリティ面をカバーするだろうからこれもまた考えなくてよい問題である。

       *

「ふむ、調子は良さそうだな」
「そのようです、旦那さま」
 私の問いかけに、その女性はコクリと頷いた。その『頷く』という動作がいささかスムーズさに欠けているが。ちなみに旦那さま、というのは私のことである。
 研究室代わりにしている団地の中にある集会場。
 そこで私は三十人ほどの女性達を集め、彼女らの身体検査をしている。と言っても、ネジがゆるんでないか、ボルトの締めがきつすぎないかなどをチェックしているのだが。
 そう、彼女たちは人間ではない。
 アンドロイドである。
 団地妻アンドロイドとでも言おうか。
 この団地に住まう人間は私ひとり。そのほかは全て彼女達アンドロイドだ。
 もちろん彼女達に夫はいない。ただ便宜的に団地妻と呼んでいるだけだ。そのほうが都合がいい。昼間出歩かせても自然だし、複数人で固まらせて動かしても「あぁ井戸端会議でもしてるんだな」ぐらいに思われる程度だ。
 私はこの団地を拠点にして、団地妻アンドロイド部隊を作り上げたのである。
 この部隊を率いて、私は革命を起こすのだ。

       *

 深夜。
 突如身体をゆさゆさと揺らされ、私は目覚めた。
 見ればアンドロイドのひとりが私を上から覗き込んでいるではないか。
「どうした、こんな夜中に」
「旦那さま、敵襲です」
「なんだと、気付かれたか」
「いえ、そうではなく」
 どういうわけか彼女はそこで自身の手首を外し、腕に内臓されているガトリングガンを露にした。彼女以外の団地妻アンドロイドたちも部屋につめかけ、同様の仕草をする。
 
 
 
 

「敵は、私たちです」
 
 
 
 

 ガトリングが火を噴いたところを認識した瞬間に、私の視界は闇に閉ざされた。

       *

「やーだ奥さんったら、それって本当なの?」
「本当よぉ。107号室の奥さん、FXで失敗して借金が500万あるんだから~」
「まあっ」
 団地妻たちが井戸端会議をしている。
 楽しげに笑い、語らい、そして周囲に目を光らせる。
 やっと手に入れた自分達の楽園を脅かす者がいないかどうかを。
 

※あとがき
『団地妻の人体』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。
こんなお題でも出されない限りは絶対に書かなかったであろう短編が出来上がった。こういうところが即興小説の良いところかと。即興小説でなくてもいいので、誰かにお題を出してもらって小説を書いてみると、これまでとはまるで違ったステージで戦うような気分が味わえて新鮮ですよ。
これ、冗談抜きでオススメです。とても楽しい。
 

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