なぜ美術館?短編小説『英雄美術館』

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「この剣はどういったもので?」
「これは二十年前、隣国のバロイデスとの戦争時に騎士キエラが使用したものです。彼女はとても勇ましく部隊を率い、そして散ったと伝えられております」
「ふむ。ではその隣の槍は?」
「こちらは暗殺者ルリエが使用していた短槍ですね。暗殺者で槍を使う者は珍しいのですが、それよりもルリエの暗殺の心構えが一風変わっていますね」
「ほう」
「ルリエは常に『自分と同等かそれ以上の強さの者しか刺さない』と言っていたそうです」
「それはまた変わっている。この美術館に武具が展示されるのも無理はない」
 客の男がガハハハと笑っているのを、私ことこの『英雄美術館』の管理人は笑みをたたえて見ていた。男はいかにも羽振りの良さそうな商人といった風体だった。
 金に困らず、食うものに困らず、女にも困らず。そんなところだろう。
 だが、この客は、残念だけれどこの美術館の本当の姿が見えていないようだ。
 
 

 また別の客が来館したので、私は相手をする。
 客は若い男だった。決して身なりはきれいではないが、顔の造形が整っていた。
 男は来館した途端に、感嘆の声を漏らす。
「……これは、美しいですね」
 私はその様子に目を光らせた。
 この客には、見えている。
「この女騎士は……まるで生きているようだ」
 騎士キエラの剣の前で、男は立ち止まっている。彼の目は剣に向いていない。まるで何者かと対峙しているかのように、虚空に視線を固定させている。その確信的な眼差しを見て、私もまた確信する。
 やはり……。
 
 
 
 

「あなたには見えているようですね、この剣に宿った魂が」
 
 
 
 

「はい」
 男は静かに頷いた。それは秘密を共有するような、静かな肯定だった。
 この美術館は表向きは過去の英雄達が残した武具を展示している場所だが、時々訊かれる。
『なぜ美術館なんだ?』
 と。
 そういう質問をする輩は、この『英雄美術館』の真の姿が見えていない。
 ここは、武具に宿った魂を展示してる。
 英雄の武具には、その持ち主である英雄の魂が宿ることが多い。私はそういった武具を収集し、ここで展示をしている。好みもあってか、どの英雄も女性ばかりだ。
 どの英雄も傷つき、それでも勇ましく闘志の炎を宿している。なんて美しい。
 魂の美しさを、めでるための場所。
 故に、美術館なのである。
 
 

 客の男は、ひとりひとりの英雄の魂にお辞儀をし、その美しい様に見とれている。まるで取り付かれたかのようだ。彼ならば、お気に入りの英雄を見つけることだろう。
 彼が今後もここに足繁く通うのが目に見えるようだった。
 

※あとがき
『傷だらけの美術館』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。
写真が好きなので写真展には足を運んだことはあるんですけど、絵画のほうは全く行ったことがないです。でもお気に入りの絵師さんが個展を開いたら行ってみたいなーとは思いますね。
 

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