喋る白い犬は僕の家にいるわけで……。短編小説『逃亡した白い犬』

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※この物語はフィクションです。実際の某白い犬は逃亡などしておりません。

 

携帯電話会社のCMで有名な、あの白い犬が逃亡してから一週間が過ぎた。
今では全国で捜索されているが、未だ発見には至っていない。
連日のようにニュースの話題を独占し、ネットでも話題となっている。ツイッター上では目撃情報やデマが飛び交い拡散され、状況は混沌の様相を呈している。
見つけた者には賞金一千万円進呈と携帯電話会社が発表してからは、さらに注目度が増して似たような犬を用意して見つけたと偽る者まで出る始末だ。いったいどこにいるんだ犬畜生め、と血眼で捜索する一攫千金を夢見る者たちが後を立たない。
いやまあ、うちにいるんだけどね、その白い犬。

 

「すっかり人気者だなぁ」
白い犬がテレビのニュースを眺め、他人事のように言った。いや『言った』ではなく『吠えた』と言うべきなのか。口をパクパクさせているのでどうにも奇妙だ。ニュースの中では白い犬が出演した過去のCMがダイジェストで流れている。
「元々人気者だったけどね」
「いいのか、ワシを差し出せば一千万もらえるぞ」
「興味ないよ。百万もらうより、君みたいな喋る犬が身近にいる生活のほうが貴重で稀少だよ」
「ふむ」
白い犬がコクリと頷いた、ように見えた。
白い犬が僕の家にやって来たのは五日前のことだ。
雨が降りしきる寒い日に僕が中学から帰ってくると、白い犬はうちの玄関の前でなぜかハチ公のように微動だにせずにおすわりの体勢を維持していた。いったい誰を待っていたのだろうか。
風邪を引いたら大変なので僕が家の中に入れてやると、すっかり居ついてしまったわけである。
うちは両親がいつも仕事で夜遅くに帰ってくるから、白い犬のことはまだバレてない。白い犬には、夜になったら庭の物置に隠れてもらっている。

「そういえば、どうしてあの家から逃げたの?」
僕が訪ねると、白い犬は鼻を鳴らした。
「あの家族が会社側が決めた設定に過ぎんからだ」
「それって、本当の家族のところに行くために逃げたってこと?」
「そういうことだ。察しがいい子供で助かる」
「じゃあ早くここから出ないと」
「何を言っているのだ」
白い犬は小首を傾げた。
「だって、僕は君の本当の家族じゃないし」
僕がそう口にすると、白い犬は面倒臭そうに後ろ脚で耳のあたりをかいた。
「何が本当で、何が嘘なのかは、ワシが決める」
「うん……?」
今度は僕が首を傾げる番だった。白い犬の言わんとしてることがいまいちよくわからない。
「察しがいいかと思ったが、そうでもないようだな」
「ごめん」
「謝る必要はない。元はと言えばワシが押しかけてきたのだからな」
白い犬は瞳に真剣な光をたたえて僕に向き直る。
「そのー、なんだ。つまりは……ワシをここに住まわせてくれと、言っとるんだ」
それだけ言うと、白い犬は明後日の方角を向いた。
犬なので表情を読むことができないけれど、僕はそれを照れ隠しだと受け取った。

 

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