倉庫で古いパソコンを見つけたんだが……。短編小説『君は本当に、それでいいのかい?』

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「おせぇ……」
 僕は古いパソコンを立ち上げていた。電源を入れてからかれこれ5分経過しているのだが、未だにOSが起動すらしていないっていうね。
 父方の祖父母の家に来ているのだけれど、あまりにも退屈なので倉庫の中を漁っていたら出てきたのがこのパソコン。ブラウン管モニターと本体が一体型になっている、随分昔の仕様だった。少なくとも現在中学二年の僕にはちょっと理解に苦しむ形をしている。液晶じゃないの?
 倉庫にちょうどコンセントがあったので電源を差し込んで立ち上げてみたら、亀の歩みかよと突っ込まずにはいられないほどの超低速パソコンだったというわけである。
 
 

「こ、これは」
 僕は息を呑んだ。
 OSがようやく立ち上がり、適当なフォルダを開いたら画像がわんさか出てきた。
 あんな画像やこんな画像。
 出るわ出るわ何の祭だよといわんばかりに。
 やはり昔のPCだから画質は決してよくはないのだが、見られないことはない。むしろ味わいがあるとすら思える。
 僕は画像を観覧しつつ、いったいこのパソコンは誰のだろうと考えた。
 ……まあ、十中八九オヤジのだろうね。
 年齢的に考えて、オヤジが高校生か大学生あたりの頃に使っていたものだと思われる。青春をこのPCの中で謳歌してたんだなーと思われる画像というか残骸が色々あって、僕としては感慨深いものがあった。時の流れを経て、こうして彼の子供である僕がこの画像の群を観覧しているというのは、とても奇跡的で運命的だなと。
 
 

 画像ファイルの群の中に、ひとつだけ動画ファイルがあることに僕は気付いた。ついに静止画ではなく動画に手を出したか、と僕は青春時代の父親を賞賛しつつアイコンをダブルクリックしてみる。
 すると、予想外のものが動画として流れてきた。
『やあ』
 動画にはひとりの男が手をひょいと軽く上げて挨拶を寄越している。年齢は大学生ぐらいだろうか。大人にはちょっと足りないという具合。画質は恐ろしく悪いし声は今と随分違うけど、僕には彼が誰だかわかる。
 
 
 
 

 オヤジだ。
 
 
 
 

 若かりし日のオヤジが、画面に映っていた。彼は軽い語り口で話す。
『ケジメのために僕はこのビデオを撮影することにした。ケジメ、そうケジメなんだよ。ここにある画像ファイルと決別するための、ね』
「マジか!」
 だからこのパソコンは倉庫の中に埃をかぶって封印されていたのか。
 動画の中のオヤジは続ける。
『僕は今日、好きな女の子に告白する。けれど、不純なモノが心にある状態では相手に失礼だと思う。だから今日、このパソコンは封印する。僕はもう、決してここにある画像は見ない。絶対にだ』
 真剣な面持ちで若かりし日のオヤジは宣言した。
『この動画を見ているのが僕なら、それは告白に失敗したときだろう。けれどもし、僕以外の誰かなら、それは僕が告白に成功し、そして結婚して幸せに暮らしているということを意味する。僕以外の誰かなら、ここにある宝物は進呈する。好きに使ってくれ。だが、』
 そこでオヤジはニヤリと口角を吊り上げた。
『君は本当に、それでいいのかい?』

       *

 晩飯時になって、オヤジも祖父母の家に駆けつけた。
 いやーオフクロまた老けた?
 オヤジまた髪の毛薄くなった?
 などと実の両親に失敬極まりない軽口を叩いていた。
 それから母さんに手土産の寿司を渡していた。
 母さんは「あらまあ」とか言いながら嬉しそうにしていた。
 僕もまた、いつかオヤジのようにあんな画像やこんな画像を卒業する日が来る、のだろうか。とりあえず今のところはその兆候はない。
 今のところは。
 

※あとがき
『未熟なパソコン』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
ちなみに、僕も今のところ卒業する気配ないですが何か。
まあ自分で書いててなんですけど、男は別に卒業する必要ないと思いますよ。えぇ。
 

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