夢見たパラダイスは地獄だった? 短編小説『少数派の僕達だから』

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 僕は期待に胸を膨らませて、入学式の初日に高校の門をくぐった。
 僕が通うことになった高校は共学なのだが、元は女子校なのである。今年から共学になったわけだ。当然のことながら共学化した初年度なわけなので、男女比は男子のほうがはるかに少ない。
 それは期待に胸を膨らませてしまうのも無理からぬ話である。
 けれど、高校に入学してから待ち受けていたのは、胸膨らむどころか胸しぼむ日々だった。

 

 男子は案の定少数派で、三十人のクラスで男子は僕を含め四人だけだった。
 残りは全て女子。
 なんというパラダイス。厳しく世知辛い世の中という名の砂漠においては、ここはオアシスではなかろうかと僕は未来の高校生活に心躍らせた。
 だが、僕達少数派の男子は女子から全く相手にされず、それどころかなんだかんだと雑用を押し付けられるという不遇の扱いを受けた。彼女たちは教室に住まう巨人か何かかと思うほどに態度が大きい。女子相手とあなどるなかれ。彼女達に集団で罵詈雑言を浴びせられると、トラウマを量産すること請け合いなのだから。
 今日も今日とて僕達は掃除当番を押し付けられてしまった。
 断れよと思われることだろう。
 けれど、総勢二十六名の女子からの冷ややかな視線を受けてみればわかる。
 身も凍るほどの危機感をひしひしと感じた。
 やむなく僕達男子は箒を手に取ったわけである。

 路肩の石ころの如き扱いを受けている僕たち男子だけど、全く悪い面ばかりでもない。
 その最たる要素が、結束力。
 僕達男子四人が掃除を開始すれば、瞬く間に教室をきれいにしてみせよう。クオリティも保障する。
 なぜそんなことが可能なのか。
 それは僕達四人が常日頃から奴隷めいた扱いを受けているため、協力せざる負えず、そして協力していくうちに結束力、いわば絆が芽生えたのだ。情けなくて涙無しでは語れないじゃないかこの野郎。
 対して女子はというと、結束力や絆とは程遠い存在だ。
 ……と、僕の目にはそう映る。
 というのも、女子はクラス内で複数のグループに分かれているのだが、そのグループ間での対立や軋轢が僕たち男子には理解できないほどに険悪である。表立って乱闘などはしないけれど、無視や陰口を叩くのは当たり前。SNSなんかを利用してネット空間をも戦場にしてしまっているほど。陰湿なのだ。恐ろしい。
 グループ間だけでなく、グループ内でも内輪もめのような状態に陥ることもあるから救いがなさすぎる。
 女子と言うのはもっとこう、可愛いフワフワとした空気を発しているのだと夢みていたけど、どうやら僕は二次元の世界と混同していたようだ。夢は所詮夢なのだ。

 今朝、登校して教室に入ってみると、わいわいと騒がしい教室内で、ひとりポツンと孤独に席に座っている女子がいた。
 たしか入学時は女子五人のグループに所属していた彼女だが、ここのところあんなふうに孤立している姿をよく目にするようになった。何があったのかはわからない。
 けれど、何かがあったことだけは間違いない。
 グループを追放されるような何かが。
 ゴクリ、と僕は唾を飲み込む。
 僕は自分の机にカバンを置き、爪弾きにされた女子に近づき、声をかける。
「……お、おはよう」
 すると、その女子はビクッと肩を震わせた。
 まさか誰かから、それも男子から声をかけられるとは思わなかったのだろう。
 戸惑いの色を瞳にたたえたその姿から、僕はやはり声をかけたのは失策だったかと思いかけた。
 けれど、
「お、はよう……」
 ぎこちなく微笑んで、彼女は挨拶を返してくれた。
 ここぞとばかりに僕はさらに口を開く。
「今日……昼メシいっしょに食べないか? 俺のほかにも三人いるんだけど」
 全部男子だけど、と心の中で伝える。
 女子にもそれは通じていたのだろう。
 彼女はしばし瞳をきょろきょろとさせてから、答を示した。
「……うん」
 と。
 コクリと頷く彼女の姿に僕は心の中で『ようこそ!』と声高に叫んでいた。
 早くほかの三人に伝えなくては。
 僕達は少数派だけれど、結束力だけは負けない。

 

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