彼の朝ごはんに唖然……。短編小説『シキタリーズ』

sikirtari

 やはりただ付き合っているだけではわからないことってあるなぁと。
 私は彼と同棲してみてそんなことを思った。
 

「それ、美味しいの?」
「美味いぜ」
 得意げに彼は鼻を鳴らした。
 ちなみに彼が「美味い」と絶賛しているのは、ご飯に牛乳をかけてその上に煮干を三匹積載させた、どう見る角度を変えても美味しそうには見えない代物だ。
 同棲を始めて最初の朝。前日の夜、彼が「朝メシには白米と煮干と牛乳を出してほしいな」と所望したので、私はその通りにした。正直言って私の料理の腕は超低空飛行の実力なので、これは助かるわーと内心でほくそ笑んでいた。
 が。
 いざ牛乳ぶっかけ煮干乗せメシを目の前にしてみると、まだ私が作ったほうがいいんじゃないのと思わずにはいられない。ていうか、まさか全てを合体させるとは夢にも思わなかったよ…。
 そんな私の冷ややかな視線になど気付くことなく、彼はモリモリとその奇怪なご飯を食べている。
「いつもそれ食べてるの?」
「そうだな。もう物心付いたときから25歳なる現在までずっと。俺んちのしきたりみたいなもんだよ」
「ふ、ふーん」
 とんだしきたりである。彼と結婚して彼の実家に行った暁には、私もそのしきたりに従わなければならないのだろうか。想像して、私は身震いしてしまった。

       *

 やっぱただ付き合ってるだけじゃわからんことってあるよなーと。
 俺は彼女と同棲してみてそんなことを思った。
 俺が牛乳煮干メシを食っているのを、彼女はどこか怪訝な様子で眺めていた。変わっていると思われているのだろうか。美味いんだけどなぁ。ていうか、彼女が食ってるメシも相当に変わっているんだが……。
「あのさ、それって美味いのか?」
「うんっ、最高!」
 彼女は可愛らしく頷いてみせた。
 それから納豆に蜂蜜とタバスコを入れてかき混ぜたものをトーストに載せた不思議な食べ物を食す。それからにぱぁっと笑みを浮かべていた。
 彼女の食べ方もまた、俺の牛乳煮干メシのようにしきたりなのだろうか。
 

※あとがき
『あいつのしきたり』というお題を元にして書いた即興小説を、一部加筆修正した作品です。
個々人のしきたりと言うと、やはり各家庭の食にあるのではないかと僕は思います。
未だに鮮烈に覚えているのが小学校時代、友達の家に行った時の思い出。友達の家で出されたおやつがコーヒーゼリーだったのですが、食べ終わった後に彼の母親がなぜか牛乳を持ってやってきた。そして食べ終えたコーヒーゼリーの容器の中にその牛乳を注いだのです。
え、どゆこと??
混乱する僕をよそに、友達は慣れた様子でコクコクとゼリーの容器に入った牛乳を飲んでいた。
どうにも不可解なので聞いてみたら、彼の家ではコーヒーゼリーを食べ終えると、その容器に牛乳を入れて飲むのが習慣とのこと。鍋でいうところの雑炊みたいなもんだろうかと今は解釈してますけど、たぶん今見ても驚くと思うんですよね(笑)
 

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