魔術の使用を禁じられた世界で仕事を求める魔術師 短編小説『ノージョブの魔術師』

 俺は就職活動の真っ只中だ。この夏の暑い中、リクルートスーツに身を包み、あくせく街を歩いて額に汗かきこの会社までやって来た。
 英語の教材を扱っている会社で、募集されている職種は営業だった。正直俺に向いているとは思えないが、とにかく仕事が欲しい一心で俺は面接に臨んだ。
 だが、俺の危機感とは裏腹に、面接官の中年の男は俺の履歴書を一瞥した途端に瞳から色を失くした。不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
 それからいくつかの質問を受け、俺はそれられに答えた。
 面接官はついに退屈そうに欠伸をした。
 なんの資格も特技もない、学歴も大したことのない俺に希望を持てなかったのだろう。
「はい、面接はこれで終了です。結果は今週中にはご連絡しますので」
 面接官の男は無味乾燥な面差しでそう言った。
 欠片ほどの手ごたえもないまま、面接は終わった。

 正確には、俺になんの特技も資格もないというのは間違っている。
 俺は『一級魔術師』の資格を所持し、特技は赤系統の魔術、つまり炎を自在に操ることを可能にした魔術を十八番としていた。
 が、全ては過去形だ。
 政府が交付した魔術撤廃令によって俺は資格を剥奪され、魔術の行使も違反行為とされるため使うに使えなかった。こんな法律が制定されてしまったのは、ひとえに魔術師による犯罪が増えたためである。たしかに非魔術師にしてみれば魔術師の能力は脅威だろうけれど……。
 俺は警備会社で働いていたのだが、魔術が使えない俺などただの非力な青年でしかなく、警備会社も解雇に躊躇がなかった。
 以来半年間、俺はノージョブである。

 翌日も面接だった。
 今日の会社は警備会社だ。魔術は使えなくなってしまった俺だが、やはり長く働いてきた警備の仕事が落ち着くと思ったわけだ。とりあえず書類審査は通ったので、まだまだ捨てたもんじゃないのかなと前向きに捉えているが、果たしてどうだろう。
 面接官はキリリと引き締まった表情の女性だった。グレーのパンツスーツに身を包み、刃のごとき鋭い視線を俺に向けている。いかにも仕事ができそうなキャリアウーマンといった雰囲気である。
 面接官の質問に答える俺。
 質問の内容自体はほかの会社とあまり大差なかった。
 問題は質問を終えたあとだった。
「それでは次に、実技試験に入ります」
 感情の欠いた声音で、面接官は唐突に口にした。
「実技試験?」
 俺は思わず聞き返した。
 聞いてないぞそんなこと。
 どういうことですか、と問う間もなく、面接官の女は魔術を行使してきた。右手を掲げ、空間が圧縮するかのように空気が流れる。
 青系統の魔術だ。掲げている右手から二本の氷の刃が浮かび、突如俺に襲い掛かってくる。
 俺は咄嗟に赤系統の魔術で対抗する。法律が気になったが、法律守って命を落としてしまっては死にきれない。
 掌からうなりをあげて炎が氷の刃に襲い掛かる。
 じゅわっと音を立てて氷塊が溶解する。氷の刃をあっさりと溶かすことに成功した。
 だが魔術を行使した後には後悔が俺を襲う。
 魔術撤廃令に違反してしまった、と。自分の命は守れたけれど、これから俺はどうなってしまうんだ……。
 背中に冷や汗がダラダラと流れる。
 終わった、何もかも……。
 ちくしょう、こんなことで捕まっちまうのかよ。俺の人生、ろくなことがなかったな……。
 絶望している俺だったが、面接官はにこやかに微笑み、拍手を送ってきた。
「な、なんで拍手してるんですか……?」
「これはテストだったのです。そしてあなたは見事合格しました」
 面接官の女は平板な声で答えた。
 いざというときに、法律を無視してでも魔術を使えるのかどうかを試したと。
「我々は、強い魔術師を欲しています」
「でも魔術撤廃令が……」
「ここには私とあなたしかいません。そして私はあなたを告発するつもりはありません。それに忘れてはいませんか。私も魔術を使ったのですよ?」
「あ……」
 俺は面接官の言わんとしていることを察した。
 もぐりでやればいいということか。
「法律にも色々ありますからね。悪法もまた法律なのです、残念ながら」

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