赤と緑、それに白?そんな設定はないはずだ!短編小説『赤と緑と白の戦い』

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 僕の趣味は写真撮影で、休みの日ともなればカメラを首から提げてでかけるのが習慣となっている。カメラの手入れはもちろん欠かさない日課だ。ただ、普通に風景を撮っているわけではない。僕の被写体はコスプレイヤーたちだ。
 レイヤーたちの熱意には恐れ入るの一言だ。ピンキリではあるけれど、彼らのキャラになりきろうというこだわりはしっかりと衣装や仕草、表情にまで反映されている。自然、僕の指先も力を入れてシャッターを押し込んでしまう。
 そんな彼らを写真に納めるのが、僕の一番の楽しみである。

 もう一年前になるだろうか。
 コスプレイベントでこんな一幕があった。
 有名な某配管工兄弟のコスプレをしたふたりがいた。
 ひとりは赤で、もうひとりは緑色のつなぎを着ている。
 ふたりとも顔付きからいって四十代に届いているのではなかろうかというほどの年齢層に窺えた。
 コスプレイヤーは総じて若いので妙に目立っていた。僕はそのふたりが珍しくて近寄った。けれどなるほど、とも思った。配管工兄弟は、むしろ年を経なければしっくりこないコスプレであったのだ。
 ふたりのレイヤーはそういった意味で、自然に配管工兄弟になりきっていた。
 けれど奇異なのは、ふたりが喧嘩をしているところだった。おいおい、赤と緑は喧嘩しちゃいけないぞ。
 ふたりの間にはひとりの女性コスプレイヤーが。桃色な姫の格好ではなかった。
 タイトルは伏せるが、ピンク色を基調とした魔法少女の衣装に身を包んでいる。
 配管工の兄弟はその女の子をめぐって言い争っていた。
「俺がこの子を最初に誘ったんだ。オメーはすっこんでろ」
 赤いつなぎがすごんだ。
 けれど緑のつなぎも負けてはいない。
「この子は僕のほうをじっと見てたんだ。君なんか視界にすら入ってなかった!」
「なんでオメーにこの子の目のことがわかんだよ」
「眼球を見ればわかる。とにかく、この子は僕と飲みに行くんでっ!」
 僕はその様子をファインダーに納め、パシャリと写真を撮った。珍しいものが撮れた。
 この兄弟(かどうかはわからないが)は、どちらが帰りに彼女を連れて飲みに行くかをもめているようだ。随分とアグレッシブな兄弟である。僕など写真こそ撮ってはいるものの『しゃ、写真撮ってもいい、でしゅか?』と撮影許可を取るのも一苦労な上に噛んでしまっているから救いがない。
 閑話休題。
 魔法少女の女の子はというと、おろおろするばかりだった。
 女の子に選択権はないのだろうか。まあ、赤も緑も似たり寄ったりなのだが。

 いよいよ取っ組み合いの喧嘩になるのではと思うほどに、赤と緑の言い争いが白熱したそのとき、さらに奇異な展開となった。
 兄弟喧嘩の間に、ひとりの男が割って入ったのである。
 彼はなぜか白いつなぎを着ていた。白、だと?
 僕は思わず『そんな設定の配管工はいないぞ』と野次を飛ばしそうになった。
 白いつなぎの男は、赤と緑の兄弟に比べて圧倒的なまでに整った面差しだった。背も高く、笑みも爽やか、そして何よりも若い。二十代前半ぐらいだろうか。
 有体に言ってしまうとイケメンだった。
 緑、白、赤の順で立っているその姿は、まるでイタリア国旗のようだった。
 面白いので写真に撮っておいたのは語るまでもないだろう。
 ファインダー越しに見て気付いた。女性コスプレイヤーは白のつなぎの男にとろんとした瞳を向けていることを。
 白いつなぎの男の登場に、赤と緑は唖然としていた。自分達とのルックスの差に立ち尽くしているようにも見えるのは僕の気のせいではあるまい。少なくとも僕は自分と白のつなぎの男を隔てるルックスの差に呆然としているが何か?
 白のつなぎは女性コスプレイヤーの耳元で何事かを囁く。
 すると不思議なことに、女性コスプレイヤーに笑みが浮かび、彼の手を取った。
 そして、白いつなぎの男は彼女を連れて行ってしまった。
 去り行く彼女を呆然と見送る赤と緑の配管工。
 僕はというと、白のつなぎが何を囁いて女性レイヤーの心を掴んだのかが気になって仕方が無かった。
 いや、たぶん白つなぎが何を言っても女性レイヤーはこの場を去っていたとは思うが。

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