活字中毒者の彼を振り向かせるためにわたしの取った行動。短編小説『偽装つるつる』

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turuturu

 前日の夜に雪が降っていた。翌朝、案の定というべきか地面が凍結していた。
 わたしはこれを利用することにした。
 中学にはいつも幼馴染のジュンヤといっしょに登校している。ジュンヤは読書家で、歩きながらでも夢中で本を読んでいる。そんな本に夢中な横顔を見ていると、なんだかホッとする。
 ……うん、わたしはジュンヤのことが好き。
 ただあいつは小説ばかりに目を向けて、わたしのことなど絶対に見ていない。言うまでもなく、わたしの気持ちになんて気づいてすらいないだろう。活字中毒者め。
 でも今日、わたしに振り向かせる。
 この凍結した雪を利用して。

       *

「おはよー、ジュンヤ」
「おはよう」
 わたしの挨拶に、ジュンヤは落ち着いた声音で答えた。それから手に持っていた文庫本に目を落とし、黙読を始める。ほらね、わたしのことなんか見てないでしょ?
 でも今日は違う。
 振り向かせて、みせる。
 わたしとジュンヤは肩を並べて歩き始める。中学までの道のりは徒歩にして十五分。最初の五分ぐらいが住宅街の中で、それより先に行くと大きな通りに出る。大きな通りは人通りも結構あるし自転車も行き交っている。
 わたしがこれから発動させようとしている作戦にはとても不向き。ていうか迷惑。そして恥ずかしい。
 この五分の間が勝負。
 わたしは周囲を見渡す。うん、誰も歩いていない。
 
 
 
 

 今だああああああああぁぁぁ!!
 
 
 
 

「うわぁっと!」
 ツルツルっと足を滑らせてわたしは転んだ、ように見せかけた。実際はわざと転んだ。滑ってなどいない。
 さあジュンヤ、わたしを助けなさい。
 そしてわたしを見るの。
 たっぷり見つめ合えば気持ちが通じるって、ネットに書いてあったもん。
 ……あれ?
 助けが来ない。
 ザクザクと音を立てた足音が、わたしの横を通り過ぎていく。
 ジュンヤが転んだわたしをスルーして行ってしまったのだ。黙々と本を読みながら彼は歩みを勧めている。オイ。
 
 

「ていっ」
「どわ!?」
 ジュンヤが盛大に転んだ。わたしが彼の足首を掴んだせいなんだけど。
「何すんだよ!?」
「何でもなーい」
「いやなんでもなくないだろ!?」
「何でもないったら何でもないのー」
 わたしは立ち上がって、ジュンヤを置いて歩き始めた。
 スルーされても未だに気持ちが変わらない自分に溜息をつく。せめて、わたしの後を彼が追う構図でも作らないとやってらんないよ。
 

※あとがき
『計算ずくめのつるつる』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。
相変わらず奇怪なお題ですな(苦笑)
どうでもいいけど、今年は雪が大したことなくてよかった。一度軽く積もったぐらいかな。雪が降ると通勤の足(チャリ)が封じられて困るんですよ…。