日本にやって来たアメリカ人が求めていたものは?短編小説『巨人を求めて』

 日本のアニメはスバラシイ、ワタシは常日頃からそう思っている。
 ワタシはアメリカはオハイオ州在住で、同じ大学に通う日本人留学生からアニメや漫画のことを教えてもらい、いたく感動した。涙がチョチョギレルぐらいに(チョチョギレルの意味は実はよくわかっていないのだけれど)。
 とくにワタシが気に入っているのは、巨人が人々を蹂躙するあのアニメである。もちろん原作の漫画も全部読破した。
 日増しに日本への思いは強くなり、勉強にも身が入らなくなっていった。
 そしてついに、ワタシは日本に旅行しにいくことを決意した。もう我慢できないし、我慢するつもりもない。

 数日後、アキハバラに降り立ち、ワタシはその街の景色を唖然として眺めていた。
 ナンダここは……。
 聖地、ここが、オタクの聖地なのか。
「スバラシイ!」
 人目も気にせずワタシは歓声をあげた。通りすがりの人々が奇異な目を向けてくるが気にしない。スバラシイものはスバラシイのだ。
 さて。
 巨人はどこにいるのだろうか。 

「キョジン、シリマセンカ?」
 慣れない日本語でワタシは通行人に訊ねた。これでかれこれ十人目である。
 ワタシの日本語が間違っているのだろうか。それとも日本人がシャイな民族だからなのだろうか。奥ゆかしい人種であることは知っているのだが。
 ワタシが訊ねても、彼らは首を傾げたり恥ずかしそうに俯いたりして立ち去ってしまう。もしかするとワタシの日本語が間違っている上に日本人がシャイなのかもしれない。ツンでるじゃないか(『詰んでる』と『ツンデレ』は似ていると思った。日本語っておっもしろい)。
 しかしどうしたものか。
 けど、その十人目の彼は違った。
 ワタシの質問に「キョジン?」と逆に訊き返してきた。
「イエスッ、キョジン! キョジン、ホシイ!」
 私は全身全霊でもって巨人への熱い想いを表現した。
「へー、巨人が好きなんですね。でもアメリカにもありますけど」
 うーん、彼は何と言っているのだろう。『日本』と『アメリカ』の部分だけは聞き取れたけど。
「ニホン! ニホンキョジン、ベリーナイス!」
 とにかく、できるだけ簡単な英語でワタシは日本の巨人アニメへの執着と敬愛を示した。おそらく彼は自国の巨人アニメよりアメリカのハリウッド映画のほうが優れているだとか言っていたに違いない。この国の人々はいささかヘリクダリすぎだ(何が『減る』のだろう。日本語ってむっずかしい)。
 日本人と言うのは世界でも稀に見るほどによく謙遜する種族だ。なぜそこまで自分を卑下してしまうのかワタシには理解できない。
「ふうん、よくわかんないけど、日本の巨人が好きなんですね」
 ワタシの熱意が伝わったらしく、彼はようやく頷いた。

 彼はおもむろにかぶっていたキャップを取り、ワタシ差し出した。おぉ?
「これ、この前東京ドームで買ってきたヤツなんです。僕も巨人ファンなんですよ。よかったらもらってください。選手のサインは入ってないんでプレミアも何もないけど」
 彼は苦笑いを浮かべ「じゃあ、僕、ちょっと急いでますんで」と言って立ち去って行った。何と言っていたのか聞き取れなかったが、手を振って立ち去っているからたぶんサヨナラということなのだろう。
 ワタシは彼からもらったキャップをまじまじと眺め、彼とワタシのやり取りが行き違っていたことにようやく気付いた。
 このキャップについているマークはワタシでも知っている。
 これは、プロ野球チームの『巨人』のキャップである。
 ワタシはもう一度彼に巨人アニメについて質問を投げかけようと思ったが、そのときにはもう彼はアキハバラの雑踏の中に消えてしまっていた。

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