世界が平和になるとご飯が食べられなく人もいる。短編小説『平和に仕事を奪われた!』

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 俺は最後のカップラーメンを食べ終え、ごろりと横になった。
「あぁ……」
 意味の無い呻き声をあげ、床に転がっているリモコンを手に取りテレビを付けようとするも、電源が入らない。ああん?
「あ、そういや電気止められてたんだったな。……くそっ」
 リモコンを放り投げ、不貞寝をすることにした。
 昼間だから窓から入る自然光でいいけど、夜はどうっすかなぁ……。
 

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「せんぱーい」
「んあぁ?」
 ゆさゆさと肩を揺らされて目が覚めた。
 目の前に後輩……いや、元後輩の仙波の顔があった。
 ショートカットの黒髪に大きな瞳の若い女だ。
 部屋の中がテントの中のような具合の明るさだったので何かと思えば、ランタンが持ち込まれていた。仙波の仕業か。
「顔ちけーよ」
「ウチ、センパイのこと愛してるんで」
「こんな廃業寸前の野郎のことなんて忘れろ」
「寸前っていうか廃業しちゃってません?」
「…………」
 グウの音も出ない。
「まあまあ、そんな暗い顔しないで。ほら、見てくださいよ。わたし、ラジオ持ってきたんです。これで電気が止められて惨めな思いをしてる先輩も世の中のエンターテインメントを味わえますよ」
「お前、喧嘩売ってんの?」
 ラジオに耳を傾けつつ、仙波が持ってきたコンビニ弁当をかきこむ俺。
 仙波は鬱陶しいが弁当はありがたい。
 ラジオから聞こえる番組が終わり、また次の番組に移った。
 
 
 

『国民の皆さん、こんにちは。ヒーリングの時間となりましたので、これから流れる音楽を静かに聴いて下さい』
 
 
 

「おいおいラジオからもこんなの流れるのかよ!」
 俺が文句を垂れている間に、ラジオのスピーカーからはヒーリング音楽が流れ始めた。
 音楽と言ってもそれを『音』と表現するのは何か違う気がする。
 どちらかというと『波』とか『波長』とかのほうがしっくりくる。
 脳みそにダイレクトに訴えかける何かがある。
 その何かが、人々から邪気を払い、この国を平和にした。
「ヒーリングが始まってからまだ半年も経ってないのに、スゴイ効果ですよねぇこれ」
 暢気に唐揚げを食べながら仙波が言った。
「全くだぜ。ったく、どんな仕組みなんだぁコレ」
 政府がこのヒーリング音楽の再生を全国的に義務付け、朝、昼、晩になると外で流されるようになった。
 テレビでも流されているのは知っていたが、よもやラジオまでとは……。
「何がヒーリングだフザけやがって!」
「センパイにはまるでヒーリングの効果がないですねぇ」
「当たり前だ。こちとら殺し屋だ。みんながにっこり笑って平和になられちゃ商売になんねぇんだよ」
 そう、俺の職業は殺し屋。
 依頼を受けて人を殺めることを生業としてきた。
 それがこのヒーリングのせいで依頼なんて全く来なくなった。
 おかげで収入が途絶え、食費から電気代、家賃まで滞納する始末だぜ……。
 ちなみに仙波もまた殺し屋だったのが、
「あーあぁ、なんでお弁当の唐揚げって小さいかなぁ」
 ほわほわした雰囲気で唐揚げ弁当に文句を垂れているが、以前はもっと鋭い目つきで殺気立っていたんだ。これもヒーリング効果か。

       *

「センパイもそろそろ転職したらどうですかぁ?」
「転職っつってもなぁ」
「まずはバイトから始めるっていうのは?」
「バイトって……俺はもう30だぜ?」
「余裕ですよー。最近じゃ珍しくもなんともありませんから。ウチが働いてるコンビニ紹介しましょうか?」
「んー、考えとく」
 センパイのその答を聞いて、ウチは彼の変化を感じ取った。
 昔のセンパイなら「はぁ? 転職とかありえねぇし」と一蹴していた問いだというに、まさかの「考えとく」だよ?
 根っからの殺し屋だったせいかいまいちヒーリングの効果が出ていなかったセンパイにも、ついに変化の兆しが見えてきたようだね。
 

※あとがき
『絶望的な殺し屋』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
仕事がないのは絶望的かなと思い世界を平和にしてみました。
でも実際、世界から争いがなくなったら商売できなくなる人たちっているんでしょうねぇ…。

 

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