どんな時でも小説を書き続けた少女。短編小説『独り文筆武者修行』

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 僕の中学時代の話だ。
 小説を書き続けるクラスメイトの女子がいた。
 誰とも話さず、授業もろくに聞かず、彼女は小説を書き続けた。書き方は今時手書きで、しかも大学ノートにシャープペンで書き綴っていた。
 なぜ彼女が小説を書いていることを知っているのかと言うと、入学してすぐの自己紹介で「小説家です。自称ですけど」と公言していたからだ。そのときのクラスメイトたちの反応は、誰もが首を傾げていた。
 だが彼女がいつも何事かを一心不乱にノートに綴っていることから、それは小説なのだろうということになった。
 僕は彼女と三年間同じクラスだったけれど、言葉を交わしたのは一度だけだった。
 文芸部に入った僕は、先輩から勧誘してこいと言われていて、小説の執筆をする彼女に声をかけたのだ。
「あのさ、文芸部に入らない? いつも小説書いてるでしょ」
「小説は独りで書くもの」
 体言止めで断られた。
 その一刀両断的な断り方に、僕は言葉を続けることが叶わなかった。
 彼女には友達はできないし教師からもよく思われてはいなかった。
 そして彼女もまた、友達を求めていなければ教師によく思われようともしていなかったと思う。
 そんな彼女がイジメの標的になるのには、あまり時間がかからなかった。
 

 イジメの内容は色々とあったけれど、とくに酷かったのだが中学二年の夏、修学旅行で自由行動になったときのことだ。
 班員たちに嘘の集合時間と場所を教えられた彼女。
 彼女は言うまでもなく単独行動なので、嘘か真かを判別する術を持たない。
 そして、その班には僕もいた。
 これがイジメだっていうことはわかっていたけど、クラスのヒエラルキーで下から数えたほうが早い僕にはどうすることもできなかった。
 むしろ、彼女に感謝さえしていた。
 彼女がいなかったら、もしかしたら僕がイジメにあっていたかもしれない。
 僕も彼女ほどではないにしても友達はあまりいないし、決して明るい性格ではなかった。もし彼女がクラスにいなければ、イジメの標的候補ぐらいにはなっていたと思う。
 我ながら最低だ。
 

 彼女は嘘の集合時間と場所にやって来た。
 僕たち班員はそれを遠くから眺めていた。班員たちは腹をかかえて笑っていた。
 だが、しばらく経っても彼女はそのままそこで待ち続け、あまつさえノートを広げ何かを書き始めた。小説だろう。
 まるで動じていない。
 その姿は堂々と、それこそ凛としていた。
 ペンはノートの上で走り、踊り、時折思い出したように彼女の小さな耳の上で休憩していた。
 結局、班員たちは飽きたらしくその場を後にし、面倒ごとを引き受ける役の僕が彼女を向かいに行く。
 僕が行くと、彼女は何事もなかったかのように無言でノートをパタンと閉じたのだった。
 

 あれから数年後、とある小説の新人賞を彼女が勝ち取ったことを僕は知った。
 文芸雑誌に彼女の写真が載っていたのだが、大人になった彼女は相変わらず堂々と、凛としていた。
 新人でしかもまだ若いのに、貫禄さえ窺えた。
 いや、実際に彼女はあの過酷な中学時代の中を耐え抜き執筆していた。耐えているという印象はあまりなかったけれど、その辛さは彼女の中で時に彼女をむしばみ、何かを損なわせていたと思う。貫禄があっても不思議ではない。
 僕は思った。
 彼女は天才だ、と。
 

※あとがき
久々の短編小説なので、書いていてとても楽しかったです。
今回も例によって即興小説で書いたものを加筆修正しました。ちなみにお題は『凛とした天才』です。
先天的な天才もいるでしょうけど、努力による後天的な天才のほうに僕は惹かれます。いわゆる『続けることが才能』というアレです。
僕も書き続けますよ。はい。
 

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