小さな台風は小さな風を巻き起こす。短編小説『アオイカゼ』

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「なん、だと……」
 俺は姉の言葉を聞き、自分の耳を疑った。
 姉ちゃんは確認するようにもう一度言う。
「だからー、あたし今日ママ友とランチだからさ、その間だけアオイを預かってって言ってるの」
「待て待て。俺は昨日サークルの飲みで二日酔いなんだぜ? こんなガキの面倒見れっかよ」
 こうして喋っている傍から気持ち悪くなってきた。頭の中で除夜の鐘でも鳴ってるかのように頭がぐわんぐわんする。
 姉ちゃんが自分の娘、アオイを連れて俺が住むアパートに襲来したのは、午前十時だった。朝方帰ってきた俺にしてみれば深夜も同然の時間帯である。
「んじゃーよろしくねー」
「こらちょっと待てい!」
 俺の制止など物ともせず、姉は俺のアパートから出て行った。
 ちくしょう、せっかく大学生になって独り暮らし始めたってのに、姉夫婦の家が近いとまるで実家にいたときと同じかそれ以上に環境が悪いぜ……。
「はぁ……」
 俺はため息をつき、残された姉の娘、アオイを見やる。
「にひひひ」
「…………」
 アオイがにんまりと笑っていた。
 今年六歳になるんだったけっか。ちっこいな。うん。
 なんというか、悪戯してやろうぜ的な空気をプンプン香らせてやがる。我が姉の娘なのだなと俺は妙に納得してしまった。
 

 十分後。
「ねーねー、なんでこのおねえちゃんはすっぽんぽんなの?」
「ああ!? オマエ何やっちゃってんだよ! ベッドの下に隠しといたのに!」
「なんでかくしてんの?」
「機密文書っつうんだよそういうのは!」
「えろ?」
「どこで覚えてくんだそんな言葉!?」
「よーちえん」
「どこの幼稚園だチクショウ! モンスターペアレンツばりに苦情入れてぇ!」
 俺は頭をかきむしった。
 アオイは早々にやんちゃぶりを発揮した。
 部屋の中を走り回り、引き出しという引き出しを引っこ抜き、中身を盛大に撒き散らした。
 俺の部屋だけ台風が直撃したかのようである。
「きーっく!」
 何の脈絡もなくアオイはドロップキックを見舞ってきた。
 平素なら幼稚園児のドロップキックなんぞ大学生にはノーダメージなのだが、生憎昨夜は朝まで飲んでいたので体力防御力ともに激減。
 俺はアオイのドロップキックにあえなく撃沈した。
 アオイの両足が俺の腹にクリーンヒットする。
「う、ぐお……っ」
 やべぇ、冗談抜きで本当に苦しいぞこれ……。
 そこで俺の意識はブラックアウトした。
 
       *
 
 そよそよと頬にあたる風で、俺は目を覚ました。
「ん……」
「おきたー?」
 アオイが言った。
「お、おう……あれ、なにがどうなってんだ?」
 朦朧としていた意識が徐々に焦点を結び始める。
 そうだ、アオイのドロップキック食らって倒れたんだ。
 情けなくて涙無しではいられないぜ……。
 アオイはといえば、団扇をひらひらと扇ぎ俺に風を送ってくれている。
「うちに団扇なんてあったっけか?」
「よーちえんでつくった」
「ほう」
 たしかに団扇のサイズは幼稚園児でも楽に扱えるように小さく、団扇の面にはアオイが描いたと思われる絵が描いてあった。父親だろうか。
 男の絵と、その男が四角い箱のようなものを見ているような構図だった。
「それ、アオイの父ちゃんか?」
「うん、パパがすっぽんぽんビデオみてる絵」
「…………」
 やけにすっぽんぽん関係に免疫があると思ったらそういうことだったか。
 この子の将来が危ぶまれるがそれは姉ちゃんの責任なので俺は知らん。
 パパさんが娘に見られていることに気付くことを祈るばかりだ。
「風、気持ちいいな」
「ママがよくパパにやってあげてるの」
「へー」
 姉ちゃんにも優しいところもあるんだな。意外だ。
「『ほしいバッグがあるのぉ』っていってウチワやってあげてる」
「頼むからアオイはそんなふうにならないでくれよ……」
 俺が力なくそう言うと、アオイは俺の気持ちを知ってか知らずか、
「ウンッ!」
 と元気よく頷いた。
 ちっちゃな風が、心地よく俺の頬を撫でた。
 

※あとがき
いつものように即興小説で書いた作品を加筆修正したものです。
ちなみにお題は『ちっちゃな風』でした。もうそのまんまちっちゃくしましたw
普段は即興小説とはタイトルを変えるのですが、今回はそのまま。なんか気に入った。
小さい女の子を登場させたのは、ばらかもんの影響かなと自己分析してみたりw
 

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