月1度の外泊の理由はいったい……。短編小説『真夜中のプロレス』

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 我が家にはひとつ、ミステリーがある。
 兄貴の外泊だ。
 どこで何をしているのか知らないが、俺の兄貴は月一回必ず外泊をする。
 いや、兄貴はもう大学生だし外泊の一泊や二泊ぐらいで親からとやかく言われたりはしない。女だったらまた話は違うだろうけど。
 ただ、兄貴は趣味がプラモ作りとアニメ鑑賞というオタクで、彼女の影すら窺えないほどに女っ気がない。外で彼女会って朝まで~というのはあり得ないと思うんだ。
 それに月一回だけ会うというのもおかしい。あるいは遠距離恋愛でもしているのだろうか。
 ……やっぱ恋愛はないな。なにせ兄貴は俺の誕生日にプロレスのマスクをプレゼントしてくるような変わり者でもある。彼女のプレゼントにプロレス用の衣装でもあげるぐらい平気でやりそうだ。

       *

 晩飯を食べ終わり、俺が部屋でぐだぐだと漫画を読んでいると、隣の兄貴の部屋のドアが開く音が聞こえた。
 足音は階段を降り、そして玄関へと向かう。
 玄関?
 俺はガバッと起き上がる。
 晩飯後に兄貴が外出することなど、外泊するとき以外にない。
「……ついてってみっか」
 好奇心が勝った瞬間だった。
 俺は財布と携帯をジーンズのポケットにねじ込んで、兄貴が家の外に出るのを見計らって部屋を出た。

       *

 俺は兄貴を追跡する。
 ヤツは俺の存在になど気付いた様子もなく、暢気にフラフラと歩いている。
 夜の住宅街はしんと静まっていて、俺の足音が聞こえてしまうのではと危惧したが、兄貴は音楽を聴いているらしくいかついヘッドホンを頭部に装着している。俺がどんなに足音を立てても、アレなら聞こえまい。
 兄貴が曲がり角をまがった。
 おっしゃー、と俺は意気揚々と距離を縮める。
 やっべーな、俺もしかして探偵の素質あんじゃね?
 などと内心で己の追跡っぷりを自画自賛しつつ曲がる。
 兄貴が待ち構えていた。
「どわっちゃー!」
 俺は思わず奇怪な声をあげた。
「……オマエは何してんだよ」
「い、いやぁ、ちょいとジュースを買いにコンビニへ」
「方向が違う」
「ですよねー……」
「俺の後をついてきたわけか」
「…………」
 バレてたみたいです。
「なんでバレちまったんだ……。音楽聴いてたんだからわかるわけねえのに」
「フッ」
 兄貴は鼻で笑うと、おもむろにヘッドホンを外し、俺の頭にカポッと装着させた。音楽は流れていなかった。なんてこったい……。
「オマエ、尾行下手すぎ」
「…………」
 俺の将来の就職先から探偵事務所が消えた瞬間だった。

       *

 兄貴は「気になるならついてくれば?」と追跡者のやる気を削ぐこと請け合いのどうでもいい口ぶりで俺の尾行を容認した。
 兄貴公認の追跡者となった俺は、ヤツの後ろを歩く。もはや尾行ですらなかった。
 十分ほど歩くと、兄貴の目的の場所に到着した。
 古びた一軒家だった。
「彼女んち?」
「んなもんいるか。俺にはちゃんと二次元に嫁がいるんだぞ」
「…………」
 ドヤ顔で言われてもなぁ……。
 一軒家のドアを鍵を使って入る兄貴。鍵を持っていることに俺は目を見張った。合鍵?
 果たして家の中には巨大な男がいた。
 筋肉は膨れ上がり、身長も180は軽くありそうだった。
「おう、来たか」
「うっす」
「あれ、そいつは?」
 巨大な男が俺に視線を移した。食われないよな……。
「こいつは弟。俺の仕事が気になったらしくてついてきた」
「ほう。まあ見学は自由にしてくれていいぜ」
 巨大な男がにんまりと笑いかけてきた。
「ど、どーも」
 俺もどうにかひくひくと唇の端を吊り上げることで友好関係をアピールした。

       *
 
 事の真相はこうだ。
 兄貴は月一回、プロレスのマスクを作るバイトをしていた。
 巨大な男は兄貴の雇い主で元プロレスラーだった(どおりで……)。
 男の都合で仕事は深夜帯になっていたというわけである。
 兄貴が以前、俺の誕生日にくれたプロレスのマスクもここで作ったものだという。
 たしかに兄貴はいつもミリ単位の細かいパーツをちまちまとくみ上げてプラモを作っているから手先は器用だ。裁縫も同様に得意なのだろう。
 にしても、バイトだったか。
 俺としては、可愛い女子と付き合ってて、その子の友達を紹介してくれたりとかを期待してたんだけどな。
 

※あとがき
『素朴な理由』というお題で書いた即興小説を一部加筆修正した作品です。
素朴、と条件付けされてしまっているのでアクロバティックな展開にすることもできないわけで、ちょっと悩みましたね。
ちなみになぜ『プロレスのマスク作り』などというバイトを思いついたかというと、高校時代のクラスメイトで実際にプロレスのマスク作りをしていた人がいたからです。何が物語を膨らませるきっかけになるかわかりませんねぇ。
 

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