新人賞の締め切り間近に僕が取った行動は……。短編小説『永久缶詰』

 僕は仕事を辞めて小説家を目指すことにした。学生時代から小説家には憧れていたし、何より働いている会社がブラックだったので。
 まだ三年も働いていないけれど、辞めるにあたって未練は微塵もなかった。
 これで、執筆に集中できる。僕は心躍ってすらいた。
 だがなかなか上手くいかなかった。指南書も何冊か読んで独学で学んだけれど、どうにも上手く物語が作れないで悩んでいた。
 僕が取りたい新人賞の締め切りは四月の上旬。今は二月下旬。
 時間的にも僕は焦っていた。
 そんなある日のこと、WEBで『小説合宿参加者募集!』という文字を見つけ、藁をもすがる思いでそのサイトを見た。
 僕はその小説合宿とやらに参加することにした。

       *

 その合宿は僕が取りたい新人賞の受賞を目指すための合宿だった。三月一日からおよそ一ヶ月間の間行われる。
 四月上旬締め切りなのになぜその一ヶ月前の三月一日から始めるのかというと、追い詰められた人たちが短期集中して作品を完成させるためである。
 まさに僕のために企画されたかのような合宿だなと内心で笑った。
 関東某所の山間の施設で行われる。宿のような場所でやるのかと思っていたら、研究所然とした無機質な施設だったことには少し驚いた。
 参加者達は講師の指導の下、ひたすら執筆した。
 もちろん僕も寝食以外の時間をほとんど執筆に費やした。 

       *

 ある日のこと、僕は気分転換に散歩に行こうとしたが、施設の外に出られないことが発覚した。
 玄関ドアは施錠され、あまつさえ鎖でドアノブがぐるぐる巻きにされていたのである。これまで部屋で執筆に集中していて気付かなかった。
 なんだよこれ……。
 まるで閉じ込められているみたいじゃないか。
 僕は講師にそのことを聴くと、彼は口元をニヤリとさせた。それはとても不吉な形の唇だった。
 彼はその不気味な笑みのまま僕に語る。
「この合宿は新人賞の締め切りに間に合わせないためにワナビを閉じ込めるための施設なんだよ。とある大物作家さんの依頼でね。これ以上新人を増やさないために行っているのさ」
「そんな……」
 僕は唖然とした。
 要は、大物作家が自分の地位を守るために小説家の卵たちを集めて閉じ込めておくことがこの合宿の目的ということになる。
 僕はその場から駆け出し、ほかに出口がないか探したが見つからなかった。
「くそっ、早いとここんなとこから逃げ……」
 そのとき、後頭部に大きな衝撃が走った。
 同時に僕の視界はブラックアウトした。 

 僕は結局、新人賞に間に合わなかった。
 そして今も施設に閉じ込められている。
 

※あとがき
『3月の小説合宿』というお題を元に書いた即興小説を一部加筆修正した作品です。
毎度のことだけどお題に戸惑った(笑)
合宿といえば集中的に……3月といえばあの新人賞……というような連想を経てこのような内容に……。
ちなみに僕は自分の部屋での執筆が一番集中できます。

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