某チェーン系居酒屋のエリア会議中にひとりの店長が立ち上がる。短編小説『暴走』

 都内某所にて、某チェーン系居酒屋のエリア会議が開かれていた。
 集まったのは都内の店舗を任された店長たちと、それらを統括指揮するエリア長の渡部(わたべ)。渡部は年の頃はもう五十代後半なのだが、すらりとした体格とふさふさとした黒髪もあってか実年齢より若く見える。
 会議室はかなり広いスペースだが、数十人が集まっているため狭く感じられた。
 店長の佐々岡もその中にいた。
 エリア長渡部が店長たちを見渡し、檄を飛ばす。
 佐々岡は眠くて思いまぶたをどうにか開いてエリア長の話に耳を傾けていた。
 また始まったよ、と彼は胸の内で舌打ちをしていた。

       *

 エリア長渡部が拳を振り上げ熱弁する。
 ここ最近エリア一帯の売り上げが落ちていて、彼の機嫌は最悪だから常にも増して語り口が熱い。唾もやたらと飛ばす。最前列に座っている人に間違いなく唾は飛んでいるだろうけれど、もちろんみんな耐えている。
 渡部は半ば叫ぶように演説を続ける。
「いいか! たとえ三日三晩寝ずに働いたとしても、我々ならまだ働けるはずだ! 私は、君たちといっしょに暴走したいっ!」と。
 要は、勢いのまま突っ走ろうということだろう。
 佐々岡は内心でため息をついた。
 彼は三日どころかすでに四日目の徹夜に突入しそうだった。
 この会社がすでに暴走している。

       *

 突如轟音が響き渡った。
 そこにいた面々がそれが銃声だと認識したのは、佐々岡が立ち上がって天井に銃を向けた姿勢で立っているのを目にしてからだった。
 銃口からはうっすらと煙がのぼっている。火薬のにおいがあたりに薄っすらと漂っている。
 佐々岡は冷ややかな表情を浮かべ、会議室の机を乗り越えてゆっくりを歩みを進める。その先にはエリア長の渡部がいた。
 渡部は何が起こっているのか未だ認識してないのか絶句したまま動かないでいる。動けないのかもしれない。
 佐々岡が渡部の眼前に立ち、銃口を彼の額に当てた。
「ひっ……」
 渡部が短い悲鳴を漏らした。
 冷笑を浮かべる佐々岡。 
「もう暴走する気力も残ってないんだけどさ……」
「あ、あ……なに、を…………」
 口をぱくぱくとさせる渡部だが、恐怖のあまり言葉を紡ぐことができないでいる。
 そんな彼を睨み、佐々岡は唇の端を吊り上げた。
「暴走がお望みなんだろ? だからこうして暴走してやってんだ。優秀な社員だろ、俺」
 そして彼は引き金を引いたのだった。
 

※あとがき
『君と暴走』というお題を元に書いた即興小説を加筆修正した作品です。
この作品はフィクションです。実在する組織、団体とは一切関係ありません。
ただまあ、某チェーン系居酒屋は暴走してるとは思いますが。特に政治家やってる例のあの人が。
例のあの人とか、ヴォルデモートかっつーの。
 

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