やっと砂漠を越えたのに……。短編小説『露天商に不向きな町』

 わたしは露天商として世界各国を旅している。
 扱っている品は薬草類を始め、旅先で仕入れた剣や防具など多岐に渡る。
 砂漠を長々と歩いて辟易としていたわたしだが、この先にあるジュビアジャヌーラという町に行けばひと息つけるはず。
 気を引き締めて、わたしは砂の大地を踏みしめた。

       *

 ジュビアジャヌーラに到着したわたしは、安堵せずにはいられなかった。
 あんな砂漠、もう二度と通るものか。暑さで干し肉になるかと思った。
 町は決して栄えているとは言えないが、宿も酒場もある。
 そして好都合なことに武器や防具を扱う店はないときた。
 これはチャンスだ。
 ただそれよりも嬉しかったのは霧雨だった。
 ずっと砂漠を歩いてきたわたしにとっては、まさに恵の雨。
 焼かれた肌が雨滴によって冷やされて気持ちが良い。
 わたしは宿を取り、晴れるのを待った。
 露天商は、晴れなければ店が開けない。

       *

 ジュビアジャヌーラに滞在してから十日が経った。
 その間、わたしは全く取引ができていない。
 というのも、十日連続で霧雨が降っているからだ。
 宿賃を払い続けているため、わたしの財産は減る一方だ。
 武具を売って稼ぐ算段をつけていただけに、この無収入状態は懐に響いた。
 わたしはじっとしていられず、部屋のベッドから起き上がり宿の主人のところへ向かった。

       *

「雨は止みませんぜ」
 いつ雨は止むんだろうな、と世間話でも振るかのように店主に話しかけたところ、素っ気ない答が返ってきた。
 何かの冗談かとも思ったが、どうもそうではないらしい。
 宿の主人の顔には、面白いことを言って笑わせてやろうなどという娯楽的な笑みは欠片も浮かんでいない。
 磨り減ったブーツの踵のように疲れきった表情だった。
 店主は続ける。
「ここは一年中霧雨が降る国なんですよ。だからほら、露天商なんていないでしょ。外じゃ商売できないからねぇ」
「…………」
 露天商のわたしが絶句したのは語るまでもないだろう。
 

※あとがき
『限界を超えた霧雨』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
この作品を書いていて、ずっと霧雨が降るのは嫌だけど、豪雨で何もかもが流されるよりはマシだな……と思いましたね。
 

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