逃亡中の俺は腕の良い整形魔術師に顔を変えてもらったが……。短編小説『魔術師は団地妻』

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 突然だが、俺は逃亡中だ。
 近代魔術業界では名のあるエルコーレ氏の邸宅から氏の家に代々伝わる家宝『ヘルメスの杖』を盗み出し、目下のところエルコーレの部下たちに追われている。
 イギリスからはるばる日本に高飛びしたというのに、どこで嗅ぎつけたのか連中も日本に上陸しやがった。
 けれど俺の故郷はここ日本。伝手もかなりある。
 ここは俺のホームグラウンドだぜ。

       *

 都内某所の団地にやって来た俺は、その七号棟の三階の一室の呼び鈴を鳴らした。
 程なくして、ひとりの女性が姿を現した。色気漂う妙齢の女性だった。
「あなたが今日のお客さん?」
 女性はゆっくりとした口調で喋った。
「そうだ。あんたがパーフェクトな仕事をするって知り合いから教えられてね。はるばるイギリスから来たよ」
「フフフ、わたしの評判もなかなかのものなのね」
 女に促され、俺は室内へ足を踏み入れた。
「あ、言っておくけど、わたしは人妻ですからね。手出したりしたら夫が黙っちゃいないわよ」
「そうかい」
 俺は適当に聞き流しておく。
 たしかに目の前の女はとても魅力的だが、今の俺に女を抱いている余裕などなかった。

       *

 数時間後、俺は別の顔に生まれ変わった。
「はい、こんな感じに仕上がったわよ」
 女に鏡を示され、俺は鏡に映った自分の顔に驚いた。
 まるで別人だった。
 この女は整形魔術を専門とする魔術師だ。
 整形と言っても顔の形だけでなくあらゆる物の形を変化させるのが整形魔術である。
 その中でもこの女は顔の造形を変容させることを極め続け、今や近代魔術業界においては右に出るものはいなくなった。
 まあ、こんなふうにアンダーグラウンドで活躍しているわけなんだがな。 
「ねえ、それってヘルメスの杖?」
 女が壁に立てかけておいた杖に目を向けた。
「ああそうだ。よく知ってるな」
「まあね。だってわたしの夫の物だもの」
「えっ……」
 俺は絶句した。
 女が唇をつりあげ、目を細めた。
「整形、意味なかったわね」
 その直後、玄関が乱暴に開けられた音がしたかと思ったら追っ手が続々と部屋になだれこんだのだった。
 

※あとがき
『団地妻の整形』というお題を元に書いた即興小説を加筆修正した作品です。
団地妻が色々な事情を抱えて整形に走るしかなかったー、みたいな話にしようかとも思ったんですが、今はとにもかくにもファンタジー書きたい気分なのでこんなふうになりました。
なんだってイギリスに夫を置いてこの妻は団地で整形魔術なんぞで稼いでいるのかは自分でも謎です(笑)

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