なぜ男は周囲を警戒しながら謝るのか。短編小説『ドアの向こうはどっち?』

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「頼むっ、ドアを開けてくれ!」
 男が半泣きで懇願した。
 彼は背は高いが痩せぎすでなで肩。モヤシのような男だった。
 モヤシ男の年は二十七歳だが、頬がこけて彫が深い顔立ちだからか、実年齢より上に見られがちだ。 
「誰が開けてやるかっ」
 ドアの向こう側から若い女の怒号が飛んできた。
 モヤシ男は焦りと苛立ちで頭をかきむしる。
 十一階なので廊下からの景色はなかなかどうして悪くない。空は雲ひとつあるぐらいには晴れていて、外で遊んでいる小学生ぐらいの子供の声が聞こえてくる。
 学校が終わり、気楽な放課後を満喫しているのだろう。
 

 が、
 

 モヤシ男の気持ちは小学生たちとは対極にあった。
 楽しい過去はたしかにあったけれど、それについて今、ドアの向こうの女から糾弾されているのだ。
 こんなときに。
「お願いだ! なんでもする! なんでもするからドアを開けてくれないか!?」
「なんでもするんなら一億円よこせ!」
 ダメだ。会話にならない。
 ドアの向こうの女はモヤシ男の恋人なのだが、怒り心頭のあまり今や阿修羅の如き形相でいることは想像に難くない。
「この浮気ヤロウが! くたばれ!」
「悪かった! このとおり! このとおりっ!」
 このとおり! と口にしている男だが、別に彼は土下座をしているワケではなかった。ただ叫んでいるだけだった。
「このとおりとか言っておいて土下座もなんもしてないんでしょ!」
 女にはバレていた。
 けれど、男には土下座をできない理由がある。
 今はとにかくスグに動ける姿勢でいることが肝要なのだ。
 周囲の気配に過敏になり、瞬時に動ける態勢を整える必要がある。
 男は舌打ちする。
 なんだって今日に限って浮気相手の女は電話をかけてきたのか。
 常ならばこちらから連絡を取らない限りコンタクトは取れないのに。
 不運はそれだけではない。
 モヤシ男と本命の恋人は同じモデルのスマートフォンを使っている。そのせいもあってたまに双方のスマホを取り違えてしまうことがある。
 その「たまに」が今日だった。
 モヤシ男のスマホにかかってきた電話を恋人が出た。相手は浮気相手だった。間抜けにも程がある。
 不運はさらに重なる。
 この状況だ。
 

「いいから開けろ! デカイ声出しやがって!」
「アンタだってデカイ声出してるじゃないの!」
「ああ言えばこう言う!」
「そりゃこっちの台詞っ!」
 埒が明かない。
 ドアは鉄壁の如く固く閉ざされている。
 早く中に入りたいのに……と男の焦燥感は募り、ついには「中に入る」というプランを捨てようかと考え始めたそのとき…
 
 
 
 

「あの、おたくどちらさん?」
 
 
 
 

 かけられた声に、モヤシ男が恐る恐る振り向くと、そこにはひとりの男性がいた。
 このドアの向こうの部屋の家主だ。
 事前に調べていた情報どおり、どう前向きに見ても堅気とは思えない男だった。有体に言ってしまうと、とっても強そうだった。
 強そうな男は堅気でない世界では名を馳せている。名を馳せるということはすなわち儲けているということ。
 モヤシ男にとってはハイリスクハイリターンの仕事先と言えた。
 今回はハイリスクを得てしまったが。
「あ、いえ、その、住所間違えましたー!」
 モヤシ男は慌てふためいてその場から遁走した。
 泥棒仕事を放り出して。
 恋人兼泥棒仲間の女をその場から残して。
 
 
 

 一分後。
「開けてよ! お願いだからっ。なんでもするから!」
 モヤシ男の恋人が悲鳴をあげていた。
 彼女はドアを開けて逃げたいのだけれど、家主の男がドアを押さえているので開けられないでいる。
 ここは十一階なもんだからベランダから飛び降りることもできない。
 泣きじゃくりながらドアを叩く女に、家主が怒号を飛ばす。
「っせーよ泥棒女が! 舐めた真似しやがって! ッチクショウ、なんだって俺が警察なんぞに……あ、もしもし、警察っすか?」
「いやあああああぁぁぁ!!」
 

※あとがき
『阿修羅ドア』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。
阿修羅ドアってなんやねんwという疑問を最後まで抱きながらの執筆でしたね…。
 

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