なぜゲーム機は消えたのか。短編小説『恋しいのは事件と犯人』

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「これは事件よ!」
 カエが声を大きくして「事件」を強調した。
「どこがだよ」
 俺はというと呆れた色を強調したんだけど、カエにはまるでそのニュアンスが伝わっていなかった。
 彼女は六畳ほどの広さの部室を這いつくばって、何か手がかりになるものが落ちてはいまいかとでもいわんばかりに鵜の目鷹の目で探している。
 探しているも何も、事件じゃないから何も見つかるワケがないけれど。
「せっかく講義が終わってこれから麻雀しようと思ってたっつうのに」
「だいたい私と栗田くんの二人しかまだいないんだから麻雀は無理でしょ。それにねっ、栗田くん、事件を放っておいたら事件じゃなくっちゃうでしょ!」
「それって放っておけばいいってことじゃね?」
「いいえ! 我々は文芸研究会よっ! 事件を放っておいてはいけないの!」
 そういやここは文芸研究会だった。
 カエに言われて思い出したぐらいに、俺が所属する文芸研究会は文芸活動をしていない。
 もっぱら麻雀。
 飽きたらゲーム。
 それにも飽きたら飲みに行く。
 そんなところだ。
 でもカエのように文芸活動をしたくてこの部室のドアを開けてくるヤツもいる。
 そのほとんどが俺たちの体たらくに呆れるか絶望するか唾棄するかして去っていく。
 カエだけは例外だったけど。
 彼女は文芸の中でもミステリーマニアらしく、俺がほかのサークル仲間と麻雀に耽っている横で、分厚いミステリー小説を読み耽っている。
「耽っている」違いでこうも品格に差が出ることに驚きだぜ。
 つまりこうだ。
 カエは現実でも事件が起きまいかと望んでいて、今回その機会に恵まれ……てはいない。
 事件にしたいがために状況を曲解してるだけだな。
「ほらっ、栗田くんも手がかり探してよ。部室のこの状況は明らかにおかしいわ!」
「そうかぁ?」
「そうよっ。この部室からゲーム機が消えてるなんて、事件以外になんだっていうの!」
 
 
 

 そう。
 ゲーム機がなくなっているのだ。
 
 
 

 前述の通りこの部室は六畳一間ほどの広さだ。
 部屋の中央になんとも古風な卓袱台が置いてある。
 麻雀をするときはその上でやり、ゲームをプレイするときも卓袱台の上にゲーム機を置き、卒業した先輩が置いていったディスプレイに繋げる。
「いったい誰がゲーム機を拉致したのかしら」
「ゲーム機は物だっつうの。人格与えて「拉致」なんて無理やり感ありすぎだろ……」
 カエの言に呆れつつ、俺は昨日の記憶を探る。
 というか探るまでもない。
 これはパターンなんだけど、文芸研究会の面々は人数が集まったらまず最初に麻雀を始める。
 それに飽きたらゲーム。
 それにも飽きたら飲み……って先も言ったか。
 いや、何が言いたいのかというと、この卓袱台の上に最後に残されるのはゲーム機なんだ。
 翌日最初に来たヤツが卓袱台の上に目にするのもゲーム機ということになる。
 昨日もその例にもれることなく、ゲーム機は置きっぱなしにしてここを退散した。
 カエがおかしい事件だ拉致だと騒いでいるのは、置かれているはずのゲーム機がないから言っているのだ。
「まあおかしいかもしれねえけどさ、俺らが昨日帰った後に誰かが部室に入ってゲーム機持って帰ったんじゃね?」
 ここだけの話だけど部室の鍵は部員全員にコピーしてある。
 大学が開いている時間である限り、自由に出入り可能なのだ。
「そ、それは……」
 カエが口ごもる。
 よしよし、俺の優勢だな。
「……やっぱ、事件なんて起きないのかしら」
 みるみるうちにカエの表情が暗くなる。
「そうだよ。諦めろ」
 そのとき、部室のドアが勢いよく開け放たれた。
 
 
 

「スイマセンでしたああああああああああぁぁぁ!!」
 
 
 

 ドアを開けて入ってきたのは、一学年下の後輩の笹林という男子だった。
「な、なんだよ。なんで入ってきて早々土下座してんのオマエ?」
「そ、そのー……ゲーム機のことなんですけど……」
 笹林はプルプルと体を震わせている。何事だ。
「ぼ、僕が隠したんです!」
「あん?」
「笹林くんがぁ!?」
 俺もカエを素っ頓狂な声をあげてしまった。
 笹林は大人しい性格でそんなことをするとは思えないし、隠す理由もわからないぞ。
「そ、その、カエさんいつも『事件起きないかしら事件事件事件……』って言ってるから、僕、その……喜ばせてあげようと思って……でも結局、大して喜ばせることもできないどころか逆に落ち込ませちゃったみたいで……」
「なんでそうまでして私のことを?」
 カエはもう十分喜んでたから成功だ、という言葉をどうにか飲み込んだ俺。
 というのも、笹林の様子が、いや気配が明らかにアレなのだ。
 頬を赤らめ挙動は不審。
 カエのことをじっと見つめる眼差しは真剣で、少し潤んでいるようにも窺える。
 この改まった空気といい、笹林、まさかオマエ……。
「僕、カエさんのことが好きなんです!」
 やっぱりかーっ!
 
 

 が、
 
 

「ごめんなさい、笹林くん。私が求めているのは事件と犯人なの。恋人じゃないわ」
 カエは答えた。
 即答だった。
 

 笹林、今夜は飲み明かそうぜ。
 

※あとがき
『求めていたのは犯人』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
普段は起承転結を決めてから書きにかかっているのを、今回は実験的に何も決めずにズンズンと書き進めました。
お題がお題だけにミステリー的な匂いのする出だしにしたんですけど、これが苦労の始まりだった。
ミステリーを流れるように書くとかハードすぎる…。
残り1分ってところでどうにかこうにか形したって感じでしたねぇ。
でもこの書き方は結構気に入ったので、これからもどんどんやっていこうと思った。うん。

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