小魚の群はどこへ行くんだろう。短編小説『小魚の群と岩、あるいは島』

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datushatiku
満員電車から降りて、僕は人混みに流されるように改札を通った。
いや、実際に流されてるよ、これ。
体が体にぶつかって、前へ前へと押し流していく。

僕が新卒で入社した会社は、東京の渋谷にある。
上京した僕は、どこか浮かれた気分でいた。
ようやく田舎を出て関東に、しかも東京に来られるんだ、と。
渋谷は洗練された街だった。
なんでもあって、人もたくさんいて、僕の実家のある場所とは雲泥の差だった。
夜の人工的な明かりにまみれた景色は僕を魅了した。
まさに都市。
その巨大さに、僕は胸を弾ませていた。
仕事も研修期間の段階ではどうにかるかなー、なんて思ってた。
けど、研修が終わった途端に激務に変わった。
仕事が終わらない。
仕事が溜まる。
仕事が終わらない。
家に帰れない。
気がつけば入社して一年が経とうとしている。
今となっては、なんだって浮かれていたのかさえ思い出せない。
僕を魅了した人工的な明かりは、いまや僕を無理やり覚醒させるために光っているんじゃないかと思っているほど。

「あれ?」

僕は気がつくと、知らない駅の改札を抜けて外に出ていた。
どこだろ、ここは。
やけに空が白く見える。
まぶしくて、視界が判然としない。
振り返って駅に戻ろうとするも、体が動いてくれない。
早く、
早く、会社に、
行かなきゃならないのに。
遅刻なんかしたら怒られる。
仕事も溜まってるから叱られる。
今日は先輩たちと飲みに行く日でもある。
朝まで付き合わなきゃ。
僕の横をたくさんの人が流れ、過ぎ去っていく。
それは小魚の群のようだった。
潮の流れに乗ってみんなスイスイと泳いでいく。
それなのに僕だけ動けず取り残される。
岩か、はたまた島か。
潮の流れがどう変わろうと、僕は動けない。
小魚の群はどこへ行くんだろう。
胸が苦しくなる。
意識が薄れていく。
空の白さが広がって視界を埋めていく。
けれど心のどこかで、僕は気持ちイイって思っていた。

あとがき

『東京の孤島』というお題を元にして書いた即興小説を加筆修正した作品です。

これは僕がIT系ブラック企業に勤めていた頃の気持ちが3割くらい入ってますね。

僕のほうから言えることは

 

  • ムリしないように。
  • 人生、心躍ってなんぼですよ。

 

この2点ですね。