昨日の記憶が崩れていく。短編小説『赤い目の意のままに』

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 ナオキが見知らぬ女の子にいきなり話しかけられた。
 わたしはそれを怪訝に思う。誰よ……。
「あれ~、ナオキくんでしょ?」
「そう、ですけど」
 ナオキは戸惑っている。
 女の子はそんなこと構うことなく会話を続行する。
「やほー、元気にしてたぁ?」
「ええっと……」
「ほらぁ、昨日ゲーセンであたしにぬいぐるみ取ってくれたじゃん。あたしが苦戦してるの見かねてナオキくんが助けてくれてさー」
 わたしは見逃さなかった。
 女の子の目が赤く発光するのを。
「……あぁ、そうだったそうだった! やっべ、俺なんで忘れてたんだろ」
「大丈夫ぅ? その若さでボケちゃったとか勘弁してよぉ」
「そんなわけあるかよっ」 

       *

 ナオキと女の子と別れ、わたしは帰路についていた。
 頭の中では女の子とナオキの会話が思い出される。
 おかしい。
 ナオキと女の子は昨日知り合ったらしいけれど、それは有り得ない。
 なぜならナオキは昨日、ずっとわたしの家で大学で出されたレポートを書いていたからだ。
 二人で参考文献を読み漁りながらウンウン唸っていたのも覚えているし、ナオキが「俺、もう単位諦めるよ……」などと虚ろな目をしてつぶやいているのも記憶に新しい。
 ナオキがゲーセンに行く時間など一分たりともなかったのだ。
「なのに……」
 なぜナオキはあの変な子に出会ったなどと嘘をついたのだろう。
 それ以前に、あの女の子もどうしてそんな嘘だと丸わかりのことを……。
 わたしはあのとき、ナオキに言ってやるべきだったのかもしれない。
 昨日はずっとレポートを書いていて、ゲーセンになど行っていないと。
 けれど、あの女の子の赤く光った目が恐くて、わたしは口を開くことができなかった。
 あの光はなんだったの……?
 
 

「気になる? わたしの目」
 
 

「えっ!?」
 振り向くと、いつの間にかあの女の子が立っていた。
 まるで突然そこにワープしていたかのように、気配も足跡も予兆も感じられなかった。
 満月を背にして立つ彼女は、異様な存在感を示している。
「あなた、ずっと首をかしげてたわね」
「それは、そうよ。だって、ナオキはあんたのことなんて知らないはずなのに。昨日だって――」
「そう、昨日だってナオキくんはあなたのところにいた。昨日に限ったことじゃないわ。ここのところしょっちゅうね」
「ちょっ、わたしたちのこと見張ってたの!?」
「あなたことなんて見たくて見たわけじゃないわ。ナオキくんを鑑賞してたらいっしょにあなたがいただけって話よ。目障り極まりなかったわ」
「……何なのよ、あんた」
「わたしは、魔法使い」
「は、何それ?」
「あなたも昨日わたしと会ったでしょ。ほら、あなたがナオキくんにフラれちゃって落ち込んでいるのを、わたしが慰めてあげたじゃない」
「バカなこと言わないで。そんなことあるわけ――」
 次の瞬間、視界が赤々と染まった。
 脳が攪拌されていくような感覚に陥り、足元がフラつく。
 ……昨日、わたしは、ナオキに……
 
 

「……そうだ、わたしはナオキに、フラれたんだ……」
 
 

「そうそう。それであたしが慰めてあげたってわけ。思い出した?」
「うん、思い出した……どうして忘れてたんだろ?」
「さあ?」
 目からポロポロと涙が落ちる。
 水滴が頬を伝い、地面に落下した。
 何か涙以外の物まで落下したような気がしたが、それが何なのかはわからなかった。

       *

「ふー、これでナオキくんはわたしのモノってわけね。あー疲れた」
 魔法使いはひとりごちると、首を回した。
「にしても……操れる記憶が昨日限定っていうのはちょっと不便よねぇ。どうにかしたいわぁ~」
 魔法使いが言っているのは、先ほど放った赤く光る目のことである。
 あれは魔法で【昨日の魔法】と呼ばれているものだ。
 昨日の記憶であれば操ることができる。
 彼女の視線の先には、寂しそうな背中を向けて歩き去っていくナオキの女友達がいた。
「ま、ナオキくんに近寄るような女には同情しないけど」
 

あとがき

『昨日の魔法』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。

これ書くときに「昨日だけの記憶を操ったところで、それ以前の記憶があるなら完全に操るのはムリじゃないのか?」と思ったりもしたんですが、逆に「昨日を起点としてそれより先の未来をも掌握したとすれば……」と考えたりして「うん、操れるな」などと勝手に納得した次第(笑)

実際はどうなんでしょうなぁ。昨日の記憶が改変されて、でもそれ以前の記憶との齟齬が生まれるわけで、そこから発生する矛盾に悩み、下手したら頭がパンクするんじゃ……。

とかなんとか考えていると僕の頭がパンクしそうなのでこの辺で失礼します。

この小説を反面教師にして、皆さんはちゃんと設定の説明ができる小説を書いてください(笑)
 

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