え、どんなダンスよ!?短編小説『わたしの知らない空白』

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 そしてあいつはいなくなった。
 
 

 あいつがいなくなる前のことを思い出すと、わたしは今も後悔の念に打ちのめされてしまう。
 冗談抜きで食事も喉に通らないレベル。
 事の発端は一年前、あいつ――わたしの高校時代の後輩と、偶然街で再会したことにさかのぼる。
 わたしは映画に、あいつは本を買いに街に出ていた。
「あれ、センパイじゃないですか?」
「おっ、おひさ~」
 なんて挨拶を交わしたことを未だに記憶している。
 わたしは大学三年、彼は大学二年になっていた。
 世間話をして、その後お茶をした。
 あいつは高校時代に比べて格好良くなっていた。
 顔の造形がわたしが知っている過去のあいつより引き締まり、体格もガッシリとしていた。

       *

 再会してから三ヵ月後、何度かのデートを経てわたしとあいつは付き合うことになった。
 あいつは大学生になってお酒が好きになったらしく、わたしにも飲もうとすすめてきたけど、わたしは頑なに断り続けた。
 わたしはアルコールに弱く、酔っ払うと記憶まで飛ばしてしまうので……。
 一度、大学のゼミの飲み会に参加したのだけれど、記憶を無くしてしまったことがあった。
 その記憶の空白に何をしでかしたかは、未だ誰も教えてくれないんだけど……恐すぎる。
 そんなこんなで、わたしはたとえサークルの飲み会に参加してもずっとソフトドリンクだけで過ごしていた。

       *

 一週間前のことだ。
 あいつがわたしの家に来た。とても機嫌が良さそうだった。
「これ見ろよこれ」
「なにこれ」
「梅酒」
「…………」
 いや、わたしはお酒飲まないから。
 聞けば、この梅酒はあいつの実家で漬けられた梅酒で、なんと二十五年物なんだそうだ。
 あいつの誕生日に彼の母親が実家から送ってきてくれたのだという。
 その味たるや口の中をにわかに熱くさせ、とろけさせ、そこはかとない甘さが広がるのだという。
「飲んでみろよ、な? ちょっとだけさ。超うめぇから」
「うーん……」
 しばし悩んだ末、わたしは飲むことにした。
 そんな美味しそうなレビューを聞いたら、飲まずにはいられない。
 自分の年齢以上の年月も漬けられた梅酒、という触れ込みもわたしの心をくすぐった。
 ちょっとだけなら、大丈夫だよね……。
 かなり濃そうなので炭酸で割って飲みたかったのだけれど、あいつが「ロックで飲んだほうがいいってマジで! 絶対後悔させねえから!」と推すのでロックにした。
 実際のところ、わたしも、そしてあいつも後悔することになるとは、このときは夢にも思わなかった。

       *

 気がつくと朝になっていた。
 わたしは下宿先のアパートの部屋で大の字になって寝ていた。
 
 
 
 

 テーブルの上で。
 
 
 
 

「…………」
 絶句した。
 あいつはというと、神妙な顔で床にあぐらをかいて座っていた。
「起きたか」
 彼の声はとても冷ややかだった。
 そしてあぐらから正座の態勢へと移行するあいつ。
「う、うん……」
「……ゴメン。別れよう」
「え、ちょっ……」
 急展開すぎるんですけど!
「俺、あのダンスはちょっとないと思うんだ……」
「ダンスぅ!?」
「しかもあんな格好で……服脱いで…………そして俺を……うぅ」
「ちょっと! なんで泣いてんのよっ! わたしがアンタに何をしたのぉ!?」
「サヨナラ」
「ちょっとコラ待てえええええぇぇぇーいっ!!」

       *

 そしてあいつはいなくなった。
 ……で、わたしはいったい何をしたの?
 だ、ダンス……?
 その後、わたしが二度とお酒を飲まなかったのは語るまでもない。
 

あとがき

『あいつの結末』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。

……なんか最近も飲んで記憶飛ばすような短編書いたような気がする(苦笑)

それはともかく、長い年月漬けた梅酒というのは実際のところ美味しいのかしらん。

自宅で母が梅酒を漬けているけれど、1年か2年ぐらいで飲んでしまうので、わからないんですよねぇ。

機会があればぜひ飲んでみたい。

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