兄妹喧嘩の真相は……。短編小説『オトリ雲』

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 気まぐれに近所の夏祭りに立ち寄ってみた。たまの休日、仕事を忘れてふらりと散歩したくなったのだ。
 祭は結構な数の人で賑わっていた。そこかしこに浴衣を着た人々が散見される。
 僕は缶ビールと焼きそばを買ってベンチに腰掛け、ひとり乾杯する。
 と、近くでふたりの子供がなにやら言い合っている。ふたりとも小学校低学年ぐらいだろうか。
 大きな声で喧嘩をしているので、周囲も注目している。
 どうもひとつしかない綿菓子を取り合っているようだ。
 そんな子供たちを見て、僕は懐かしさを覚えた。
 綿菓子かぁ。最後に食べたのはいつだっけか。
 

「お前もう食ったろ!」
「でももう一個食べたいのっ!」
 兄弟だろうか。
 どうも妹はすでに綿菓子を食べたらしいのだけれど、さらにもうひとつ食べたいらしい。
 その欲に素直なところがなんとも可笑しかった。
   

 子供達の喧嘩はその後五分ほど続き、気がついたら終息していた。
 この決着は親に決めてもらおうということになった。実に平和的で何より。武力行使に及ばなかった兄に僕は心ひそかにエールを送った。
 さてと……。
 すっかりぬるくなったビールと焼きそばで晩酌の続きを、と思ったのだが、ベンチに置いといた焼きそばがなくなっていた。
 きれいさっぱり、パックごと。
 ……どゆこと?
 ぬるくなった缶ビールを持ったまま、僕は途方に暮れた。

       *

「やー上手くいったなー」
「綿菓子作戦大成功!」
「オレら三人って天才じゃね?」
 三人の子供は神社の裏でほくそ笑みながら、かっぱらった焼きそばを三人で仲良く分けて食べていた。
 そのうちのふたりはさっき兄弟喧嘩をしていた……否、演じていたふたりだ。
 もうひとりは焼きそばをかっぱらった実行犯。
 三人はグルだった。
「お前ら演技すっげー上手いな。最高のオトリだったぜ」
「へへへ、まあな」
「まあね」
 焼きそばを食べつつ、綿菓子は残しておく。
 また次の演技で使う予定らしい。
 三人の頭上には、月を隠す雲がひとつだけプカプカと浮いていた。
 

あとがき

『たった一つの雲』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。

たった一つの物を取り合うような事態に陥った場合、どう対処するか。子供だけでなく国レベルでもありそうな話なんですけど、これって思いっきり性格出ますよね。

仲良く半分こ、じゃんけんで買ったもん勝ち、攻め入って既成事実作って取っちまおうぜ作戦などなど。

僕ですか?

じゃんけんで負けるのが悔しいので、諦めて相手にくれてやり、より良い物を求めます。
 

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