出会いがあれば別れもある。短編小説『素敵な時間をありがとう』

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 灼熱地獄の夏が終わり、十月も中旬となった今は随分と心地よく過ごせるようになった。頬にあたる風も温かみと冷たさが仲良く同居していて、いつまでも公園のベンチに座ってぼんやりしていたいと思えるほどだ。
 そんな程好い気候の中で僕が何をしているのかというと、自分の部屋で読書の秋を満喫している。まあ秋に限らず年中本を読んでいるけど。小学生の頃から僕は小説を読むのが好きで、大学生になった今でもその気持ちは変わらない。なんて一途なんだ僕は。ふふん。
 読書とは、僕の人生の一部だ。
 え、お前ボッチじゃないのかって?
 …ぼ、僕には本があるさ。
 
 

 最後のページを繰って、僕は本をパタリと閉じた。
 程よい頭の疲れと眠気が気持ち良い。読後感のまどろみに僕はしばし酔っていた。
 ……さて、と。
 読み終えた小説を本棚に本をしまおうとし、僕はその手を止める。
「もうこんな時期か…」
 なんとも切ない気持ちにかられる。しかし、いつまでも一緒にいられるわけではない。出会いがあれば別れは必然。よし。
 僕は本を本棚にしまわずに一端机の上に置き、適当な紙袋を用意する。丁度、このまえ家電量販店で買い物をしたときにもらった大きな紙袋が見つかった。
 まず読んだ本を紙袋に入れ、それから本棚にある本を次々に紙袋に格納していく。やがて紙袋はいっぱいになった。持ち上げてみると、かなりの重さだった。まるで、一冊一冊に込められた思いが重みになったかのように、僕には思えた。
 
 

 それらの本を僕は古本屋に売りに行った。査定額は大したものではなかったが別に気にはならなかった。元より、お金が欲しくて本を売ったわけではないし。
 本棚がいっぱいで新しい本を置くスペースがなかったから、古い本を売りに出しただけだ。取っておきたいって気持ちはもちろんあるよ。
 でも、全てを取っておくと新しい本が置けなくなる。
 それはつまり、新たな出会いが失われる。
 僕にとっては、そのほうがとても悲しいことだ。
 だから僕は、本に別れを告げる。
 楽しい時間をありがとう。
 そして僕はまた、別の本を手に取ったのだった。

 

あとがき

『秋の弔い』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。

って、別に読んだ本は死んじゃいませんけどねw

ただ、自分の手を離れてしまうのはどうにも消えてなくなってしまう感じがして、ね。

しかし最近はキンドルの台頭で、この手のお別れも徐々に数を減らしていたり。こうして時代は流れていくわけですな。
 

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