食器洗い機を見つめる少女の中身が実は…。短編小説『クリーンな魔力』

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cleannamaryoku

 何の因果なのか未だに理解ができないのだけれど、わたしには前世の記憶がある。前世でわたしは魔法が存在する世界を生きて、他の例に漏れずわたしもまた魔法を使って生きていた。
 そこでは何もかもを魔法に依存していた。それこそ些細な家事までも。例えば、魔法をひょいとかければ勝手に井戸から汲んできた水で皿を洗うことが可能だった。
 そんな世界と比較すると、今わたしがいる世界はかなり不思議である。

       *

 わたしは精神年齢に反して実年齢は九歳の少女なものなので、何かと苦労している。主に口調だけれど。子供らしく振舞っていないと、どうにも年齢と中身が不釣合いで不気味に思われてしまうに違いないから。
「ちーちゃん、お皿持ってきてー」
 母が甘ったるい声音で言った。
「はーいっ」
 わたしもまた甘ったるい声音で応えた。……時々、自分で自分の声にゾッとすることがあるのはここだけの秘密である。
 わたしが夕飯に使われた茶碗やお皿を持っていくと、母は「よくできましたー」とわたしを褒めてくれた。「えへへぇ」とわたしは照れた。別な意味でも照れた。恥ずかしい……。
 母はわたしが持ってきた皿を食器洗い機にどんどん放り込んでいく。それからスイッチをポチッと押すと食器洗い機がグゴゴゴゴとうごめき始めた。中では皿が水流を浴びて洗浄されているのである。
 わたしがその様子をじっと見つめていると母が、
「ちーちゃんは本当に食器洗い機が好きなのねー」
 などと的外れなことを言ってきた。
 好きとは少し違う。
 いつ見ても不思議な光景だ。この世界では主に電力を用いて文明の力を作動させている。この食器洗い機も例外ではない。電気意外にもエネルギー源はあり、ガスや水力、原子力など高度に発達している。
 にも関わらず、この世界には魔力が全く存在しないのだ。
 本当に不思議だ。
 わたしは自身の体に一切の魔力のたくわえがないことに、当初は絶望した。これから先、どうやって生きて行けばよいのかと。けれどそんな心配は杞憂だった。
 ただわたしは思う。
 この世界の文明は、決して高度ではないと。電力は決してクリーンなエネルギーではないからだ。たしかに風力や太陽光などを用いればクリーンだけれど、現状人間が必要としている電力をそれらでまかないきることは不可能だ。
 でも魔力だったらどうだろう。
 魔力は大気を汚染することもなく純粋なエネルギーとして利用できる。もしわたしが前世と同じように魔法を使えたなら、あんな食器洗い機など使うことなく皿を自動で洗って見せるのに。
 
       *

 食器洗い機が「ピーッ」とブザーを鳴らした。皿洗いが完了したようだ。
 母が食器洗い機の扉を開けてみると、中に入っていた皿はピカピカになっていた。このピカピカの分、どこかで何かが消費され、磨耗されたのだろう。
 わたしの魔力が消費されるのなら、よかったのだけれど。

 

※あとがき
『不思議な家事』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
まあ、我が家は食器洗い機なんてものは無いので普通に手洗いなんですけどね…。
 

 

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