魔物が求めていたものは?短編小説『必要なのは剣ではなくて』

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 一年ほど前にさかのぼる。
 ある村に一匹の魔物が侵入した。
 村人は騒然、男達は武器を取り魔物を倒そうとするも返り討ちにされる。
 剣はたやすくへし折られ、男達の拳は木の実を踏み潰すかのようにあっさりと砕かれた。
 村はその日の内に壊滅させられてしまった。
 その後、魔物は村から町へ、そして都市部にまでやってきた。その間の村や町も最初に襲撃された村同様に葬られた。
 魔物の侵攻は今現在も止まっていない。
 

 私は妻に「必ず帰ってくる」と言って家を出た。
 徴兵される私を妻は最後まで不安と絶望が入り混じった瞳で見つめていた。
 無理もない。
 小説家の私がまともに戦えるわけがないのだ。ただ年齢と体格が兵士にちょうどいいという理由だけで徴兵の対象にされてしまったのだから。
 私が住む街もついに魔物の標的となってしまった。今日の昼頃には魔物が街に差し掛かるだろうと予想されている。
 街の兵団だけでは戦力が足らず(これまで平和だったため弱体化しきっていた)、男達を片っ端から徴兵し、その波が非力でろくに剣も振れそうにない小説家(私)まで呑み込んだわけである。
 玄関を出てふと振り向くと、妻がまだ私を見送っていた。
 今生の別れになることを察しているのだろう。
 私はできるだけの笑顔で応えたが、果たして笑顔になっていただろうか。 
 

 命令された配置場所について一時間ほど経ったとき、あたりがにわかに騒がしくなった。
「魔物が来たぞー!」
 兵士のひとりが必死の形相でこちらにかけてきた。
「まずは貴様らが突撃しろ。我々が援護する」
 兵隊長の命令で、捨て駒扱いである我々徴兵部隊がまず魔物に向かうことになった。
 魔物はじきに姿を見せた。
 身の丈は2メートルほどだろうか。人型ではあるが筋肉は異様に盛り上がり、何より肌が深海を思わせるほどに青い。
「行けええええぇぇぇー!」
 兵隊長が叫ぶ。
 我々は仕方なしに闇雲に向かった。
 即席の部隊だから統率も何もあったものではなかった。訓練だって受けていない。
 与えられた剣を闇雲に振り回し、奇声をあげる男たち。
 私はその勢いに負けて後方から散歩を嫌がる犬のように皆についていく。
 だが、私はほかの兵士とぶつかり剣を落とした上、こともあろうに転んでしまった。これだから小説家に兵士など務まるはずがないのだ。
 あたりに響き渡る悲鳴。
 私が倒れて伏している間に、殺戮が繰り広げられていた。
 ほんの数秒で静かになる。
 私も死を覚悟したのだが、ふと見上げると魔物が手を差し伸べていた。
「大丈夫ですか?」
 と、言葉まで口にした。
 私は恐る恐る魔物の手を取った。
 魔物は口角をやや吊り上げた。おそらく笑みなのだろう。
 

 魔物は言う。
「自分は魔界の生活に嫌気が差して人間界に降り立ったのです。敵意は全くありません。ただ話がしたかっただけなのです」
「話を?」
「はい。けれど話しかけようにも人間たちは自分の姿を見るや剣で襲い掛かってきまして、こちらとしても黙って殺されるわけにもいかないから応戦し続けてしまい……」
 魔物はそこで言いよどんだ。自分の行いの重さを悔いているように。
「つまり君は、友達が欲しかったということかい?」
「そういうことです」
「では、私が君の最初の友になろう」
「いいのですか!?」
 魔物が眼球を大きくした。人間で言うところの『目を見開いた』という動作だと思う。
「いいとも」
 私は小説家だ。
 剣を振ることは得意ではないが、言葉を綴ることにかけては私の右に出るものはいないと自負している。
 そしてこの魔物による犠牲をこれ以上増やさないためならば、喜んで友となろう。
 彼が求める言葉、友情、絆を示す言葉の用意が、私にはある。
 やや斜め下からではるが、これで『街を守る』という兵士としての義務も果たせよう。
 早く帰って妻の顔が見たい。
 

あとがき

今回は『求めていたのは話』というお題で書いた即興小説を加筆修正した作品です。
私生活でも仕事でも、同じ言語を駆使しているのに意思疎通が難しいなぁと思うときがしばしばあります。
ましてや言葉を投げかける隙すら与えられないこともしばしば……。
そういう不満がこの作品に込められて、いるようないないようなw
 

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