親父っぽい彼女と付き合っているわけで……。短編小説『ニューヨーク!』

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彼女がおっさんっぽい。
いや、見た目は可愛いんだ。何せ俺は彼女に一目ぼれして告白したわけだからな。外見に限って言えば、そこらの女など鼻で笑えるほどだ。大学のゼミ仲間の間でも、俺は一目置かれているほどである。
問題は彼女の中身である。
とにかく、おっさんっぽいのだ。
付き合ってみるまではわからなかった、彼女の隠された一面だった。

 

俺と彼女は飲みに行った。彼女が行きたい店があるというので任せたんだけど、いつも行くブラック企業系居酒屋なのかと思いきや、雰囲気の落ち着いたちょっと高そうな店だった。心なしか客層の年齢が高いような気がしてならない。思わず財布の中身を確認したくなったほどだ。バイト代が出るのはまだ先なんだよなぁ……。
店員に座敷席に案内される。
俺、あぐらをかいて座る。彼女、あぐらをかいてすわる。
次いで彼女はおしぼりで顔を拭う。
「ぷはっ」
と、気持ち良さそうな笑みを浮かべた。
化粧は大丈夫なのか?
今日は機嫌が良いらしく「布団干してたらね、風でふっとんじゃったの!」などと言っている。親父ギャグ炸裂。
この通り、彼女のおっさん臭さは板についたレベルである。
俺は天を仰いだ。

 

注文した酒がきて、俺と彼女は乾杯した。テスト期間も終わったし、提出期限が間近に迫ったレポートも提出済み。心置きなく酒が飲めるってもんだ。
俺はグビグビと喉を鳴らし、生ビールの入ったジョッキを半分ほどまで減らした。
ふと彼女のほうを見やると、頼んだ梅酒のロックをちびちびと飲んでいた。
先ほどの上機嫌はどこへやら、今は必修単位を落として留年を確定させてしまった哀れな大学生のような趣である。なんで暗いんだ?
「どうした、単位でも落としたか?」
「違うよっ」
彼女が頬を膨らませて反論してきた。
まあ、そうだろうな。彼女は俺よりもずっと成績が良いし。
「じゃあなんだよ。大好物の梅酒だろ。いつもみたいにグイッと飲もうぜ」
俺は見本を見せるかのように、残りのビールをグイッグイッと喉に流し込んでいく。
「別れよう!」
「ブホッ!?」
盛大にビールを吹いてしまった。「なっ、なんだよ急に!」
ゲホゴホッとむせる俺。いかん、気管にちょっとビールが……。
そんな俺に構わず彼女は沈痛な面持ちで続ける。
「だってほら、わたし、おっさん臭いから……。付き合ってみて幻滅したでしょ。わかってるんだから……」
見れば彼女の瞳は荒れた海のように潤んでいた。いつ決壊して滂沱の涙を流すかといったレベルである。
やれやれだな、まったく。
俺は彼女の脳天にチョップを見舞った。
「あたっ!?」
ビックリした表情で彼女が顔を上げる。「このシリアスな場面で何すんの!?」
「阿呆、なーにがシリアスだ」
俺は枝豆を口の中に放り、咀嚼する。
「おっさん臭いとこも含めて、そのー、アレだ」
残りのビールで枝豆を流し込む。
「……つまりは、これからも付き合いたいってことだ。お前が親父っぽさを発揮すんのって俺の前だけじゃんか。それって、スゲェ光栄なことだよ」
俺がなんとも恥ずかしいセリフを口にすると、彼女はプルプルと震えだした。大丈夫か。
「ううぅぅ……」
「お、おい……体の調子でも悪いなら帰……」
「ニューヨークで入浴うううぅぅぅぅぅ~!」
俺のセリフは彼女の親父ギャグによる絶叫によってかき消された。たぶん、喜びを表現しているんだと思う。
まあ、つまりは俺たちは破局の危機を乗り越えたってことだ。
「……俺、ちょっとトイレ行ってくるから、なんか適当に注文しといて」
恥ずかしいのでトイレに避難したんだけどな。
周囲の酔客が俺たちの席のほうを何事かと見やってきている中、俺はそそくさとトイレに避難したのだった。

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